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モルテザは陶然と聞き惚れていたが、サントゥールの音色はすぐに止んでしまった。風花雲光で染めた糸を織り込んだような虹色の音が消えた庭は、何と味気なく映るのだろう。風そよぎ、たっぷりと日光を吸って生き生きと色付く瓊葩綉葉(けいはしゅうよう)に囲まれているというのに。むしろ心の中心にある迷いは強くなっていく。 モルテザは室内で(きび)の粉に蜜、酸乳に水を加えたダヌクーで喉を潤し、嵐の前の静けさに身を置きながら今まで乗り越えてきた烈風が巻き上げる砂塵に覆われた過去に思いを馳せた。 奴隷達は従順で壁か花瓶のように静かに側に控え、モルテザの指示を待っている。 そのような奴隷達の存在さえ億劫と感じ、人払いをしようとしたとき、微細な気の乱れを感じた。その直感は即座に現実のものとしてモルテザの目の前に現れた。扉が左右に開いたのだ。ただそこに現れた夢を現と認めるには暫しの時を必要とした。
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