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「──これは夢か」 無理もない。そこには夢に見るほど恋焦がれるシェへラザードの姿があったからだ。何を持って夢か現と判断すべきかとモルテザは混乱した。現でも夢でもシェへラザードは夢のように美しいからだ。 「モルテザ……」 小鳥のような囁きだけで彼女は現にここにあることをモルテザに認めさせた。 「なぜ……ここに……」 そう絞り出すのがやっとだった。 「王は狩りに行かれました。明日まで王宮には戻らないでしょう」 熟した果実に似た唇から発っせられる言葉は、足りない分だけ余韻を残し、濃厚な香りとなって目眩を起こさせた。 「──それは知っています」 声が震えてしまう。心臓が高鳴り過ぎて破裂しそうだった。 シェへラザードは黙ってモルテザを見つめていた。 精巧な金銀細工で飾られた真珠を溶かして塗ったような煌めく肌。手の甲から肘の辺りまで草木花の紋様が描かれ、完璧な女体を包むがゆえに、袖や襟に金の縁取りのある翡翠色の衣で見事な高山渓谷が象られている。 虹色に塗られた爪を豊満な乳の上に置き、媚態を灯した瞳がモルテザの鼓動に火を移す。
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