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モルテザは至極の美に声を失い、シェへラザードの瞳の檻に閉じ込められてしまった。彼女の真珠の首飾りが光を反射して、モルテザは目眩を覚えた。
「モルテザ……」
シェへラザードが細い指を伸ばす。ゆっくりと絹衣の裾で絨毯を払いながら近づいてくる。知性を宿しながら残酷なまでに無邪気な瞳。
「シェへラザード、貴方は何も知る必要はない」
シェへラザードは男達の苦しみを知らない。その汚泥を知らぬがゆえに艶やかな花弁を広げていられるのだ。
美女を美女たらしめるためだけに数多の男達が海底に沈んだ。命懸けで底を探っても、一人で一日に取れる真珠の数は数十個程度。
一万積み上げても売り物になるのは、たったの一粒。
更にその粒を山積みにして上質なものを選び抜いて作られたのがシェへラザードの首飾りというわけだ。
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