6/12
前へ
/219ページ
次へ
今、彼女の胸元で燦然と輝く大粒の真珠を間近に見て、海への恨みは浄化された。 真珠の色は骨の色に似ている。いや、真珠は潜水夫達の骨なのだ。幾万もの積み上げられた骨の上に立つ美女の中の美女。首から下げられた真珠の粒の無垢な輝きは、惨めさや悲劇を白光で掻き消す。 モルテザの首から指先まで青い血管が浮き上がる。怒りも悲憤もない。自分が命を懸けたものの末を目にすることが出来たのだから。血を流し闘い、最高の真珠を差し出した男が美女の微笑みを得られるのだ。そう悟った。 「モルテザ……」 知恵がありながら底辺に淀む灰汁を知らない美女がまた歩を進めた。太股に置かれた両手が絹衣の上を滑り、果実を隠しているような胸の膨らみの上で止まる。衣の合わせ目に指をかけ左右に開けると上半身を露にした。 モルテザの一つ眼が瞼を糊付けされたように見開かれた。真珠か白磁器のように滑らかで、同時に血の温もりを感じさせる乳房が目の前にあった。 折れそうな華奢な肉体から弾力をもって突き出した乳房の先で、小さな実が紅く色づいている。 シェへラザードの指が腰紐に掛かり、腰で止められていた衣が絨毯の上に滑り落ちた。
/219ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加