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王国の城塞門から真っ直ぐ続く道の先は明るく開け、数多の人で賑わっていた。 バザール(市場)だ。広い通りには左右向き合わせで店が並んでいるが、客寄せに吊るした鮮やかな布や籠に積まれたデーツや無花果が目についた。ラクダを預ける先を見つけ、市場の一角に置かれた大型の壺から水を掬い、一先ず喉を潤す。朝に汲まれたであろう水は気化熱効果でこめかみが痛むほど冷えていた。 「旅の人でしょ? 私、宿屋で働いてるのよ」 香油と化粧の匂いがいきなり寄り添う。 ちらりと視線を横に向けると赤毛の女が衣から溢れんばかりの乳房を覗かせながら腕をからめていた。瞼をクフルで黒く染めた濃く太い睫の際立つ女の顔は、夜の明かりの幽玄な効果を引いても先ず先ず美しいと言えた。 「宿に入る前にまず垢を落としたい」 「僧院にもあるけど、お湯も使えるとこに案内してあげる。その代わり色々教えて。この国からほとんど出たこと無くて。川なら舟で渡ったことあるけど」 媚態を露わに豊満な乳をモルテザの腕に当てる。女の視線はチュニックの切れ込みから覗くモルテザのオリーブ色の肌に注がれていた。 「名前は?」 「ラーメシュよ。あんたは?」 「モルテザだ」
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