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ジャリルとベーナムの対戦が始まり天幕内にナシールと二人残された。 広さをことさらに感じるのはナシールと距離を置いているからだ。天幕内に引かれた対角線の隅と隅という位置関係を保っている。 モルテザはシャムシールに映る自分の顔に視点を置きながら、無心であろうと努めた。とはいえ、相手の行動も息遣いも視線も、全く思考の外に追いやれるわけでもない。 コトリと背後で音が鳴った。振り向かなくてもナシールが葡萄酒を口に含み、杯をテーブルに置いたのだと分かる。 ナシールは変わらない。頭数がいる内は意識外にあったが、既に天幕から消えた者達と比べて驚くほど変容が無い。外の歓声が垂れ幕を揺らした。 「お前の望みは何だ?」 勝敗の結末は近いと予想して直球の問いを投げた。確かに時間がない。 「美しく生き、美しく死ぬことだ」 エメラルド色の瞳の光が強まる。 「美しく死ぬ? 勝利を望んでいないという意味か?」 やはり理解出来なかった。
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