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「勇者モルテザよ。真に見事な闘いを見せてくれた。晴れがましき春祭はそなたのお陰で大いに盛り上がった。これからも一年良い年となるであろう、と王は申されている」 どうやら、これも王の声ではないらしい。 「ははあ! 王からお誉めの言葉を賜り身に余る栄誉にございます」 無難な謝辞を返す。 「モルテザ、勇者モルテザ。これで七度目になるそうだな。片目と指一本失ったのみで、あのジャリルを倒すとは。まさか、あのジャリルを倒すとは……」 空気の変化を肌で感じ、その声の主こそ王と分かった。王の発する言葉を一言一句聞き漏らすまいと居並ぶ者達の緊張が伝わってくる。 あのジャリルを、という言葉がモルテザの心臓に爪を掛けた。 ジャリルは王の飼い犬だったのだ。自慢の猟犬で処刑人。 背筋を汗が伝う。闘技会はある種の茶番だったが、ジャリルの殺戮を楽しみ、彼を追い詰める者がいたら面白いという見世物でもあったのだ。
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