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「あのジャリルを倒すとはな。紛れもなく本物の勇者だ ジャリルの代わりにこれから余の役に立って貰いたい」
モルテザの前に太い鎖が降ろされた。敷かれた絨毯に爪が食い込む。承諾すれば自ら枷を首に嵌めることになってしまう。
「どうした。王の御言葉に答えろ!」
別の男の声がモルテザを急かした。
「──御意」
この場で王に逆らえば死あるのみ。唯々諾々と従うしかないのだ。
シャトランジの盤から下りても、違う遊戯の駒として王を楽しませるだけ。ジャリルの屍を踏み越えたら、もっと巨大な砂岩が立ちはだかっていた。
越えられない巨大な岩。
ナシールの亡霊が囁く。闘っているときは自由。選べるのは死だけだと。
この国で自由に息が出来るのは王だけだ。この王を倒さなければ王国は潤いを失い、不毛の地と化すだろう。綺羅びやかな黄金の宮殿は水枯れ果てても尚、数多の者達の血を吸って輝くのか。
シェへラザード。シェへラザードだけは何としても救いたい。狂王の催す血の宴の贄にさせるわけにはいかない。彼女こそ命を賭けて守るに相応しい女性だ。
シェへラザードこそ、この国の至宝。青い水を湛えたような瞳。この国に潤いを呼び戻すのは彼女だ。
自分になすべき道を示してくれるのは、あの青い瞳。忠誠を誓うべきは、あの瞳だ。
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