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 薄暗い森の中を、私たちは歩いていた。今は彼女が、彼を背負っている。彼と初めてここに来た時も、こんな月明かりの日だった、と私は思い出す。少し悲しい気持ちにもなったけれど、大丈夫だ、と私は自分に言い聞かせる。  彼とともに訪れたあの小屋。あの中に広がっていたのは、映画でしか見たことのないような光景だった。まるで魔術師が住んでいるかのような。薬草のようなもの、人の骸骨、古い書物、不思議な模様の布、何なのかよくわからない奇妙な形をしたもの。そして彼は言った。自分はここで作られたのだと。人として。最初に彼を作ったのが誰なのかは、彼にも分からないらしい。彼自身、最初は自分がどういう存在なのか分からず、ここに残されていた書物などで自分のことを知ったらしい。  彼は人から生まれたのではなく、人の手によって作られた存在。だから彼は歳を取ったりしない。身体が痛んだら、ここで治すことができる。一度それを試すと本当に治って、それで彼は自分がそういう存在なのだと理解したらしい。まだ試していないけれど、人の助けといろいろな条件があれば、ある儀式をすることで生き返ることさえできるらしい、と彼は言った。彼はそういう、存在なのだ。  勿論私だって、最初は信じられなかった。実は今だって、信じようとも信じたいとも思いながら、それでも半信半疑だ。けれど彼のあの時の真剣な顔は、それが真実なのだと物語っていた。だからきっと、真実なのだ。  ようやく小屋の前に着き、彼女がハァハァと荒い息を吐きながらこちらを見る。私が頷くと、彼女は彼を背中から下ろし、フゥ、と息を吐いた。  私はここで、彼を生き返らせる儀式をする。やり方は、書物に載っていると彼が言っていた。ただ、その儀式には必要なものがあって。  「これで本当に、黙っていて、くれるのね?」  ええ、と私が頷くと、彼女は少し私を恐ろしそうに見た後、背を向け、去ろうとした。私は、ポケットから、さっき拾ったものを取り出す。彼女が落とした、刃物だ。私は、静かに彼女の背後に近づく。気配に気づいて彼女が振り返ったけれど、もう遅かった。  儀式には必要なものがあって。それは生贄なのだ。
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