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 薄暗い森の中を、私は彼とともに歩いていた。もう夜だけれど、月明かりのお陰で辺りは比較的よく見える。私は隣を歩いている彼の横顔を見る。透き通るような肌に、端正な顔だちは、この薄暗さの中でもよく分かる。こうやって彼の隣を歩いているという事が、改めて不思議に思えてくる。  彼は大学の先輩だ。一つ上で、大学に入学した頃からずっと憧れていた。ただ、彼の周りにはいつも女性の姿があって、特にきれいでもかわいくもなく、友達もいないような私は近寄ることさえできなかった。それが、ある日、彼から告白されたのだ。  なぜ私なのか分からなかったけれど、告白されて、有頂天になった私は、その場ですぐさま返事をして、付き合うことになった。それが、二ヶ月くらい前の話。それから何度かデートをした後、彼から言われたのだ。「実は秘密があるんだ」と。 「僕の抱えている秘密を、君にも知って欲しいんだ。ただ、これは絶対に僕たちだけの秘密。誰にも言わないで欲しい。約束できる?」  私は、もちろん!と頷いた。好きな人と秘密を共有するなんて、これまでの人生では考えられなかったことだ。そして今私は、その秘密を知るために、彼の隣を歩いている。  あそこだ、と彼の声が聞こえた。木に隠れて分かりにくいけれど、よく見ると、視界の先の方に、小さな小屋のようなものが見えた。彼が手を私の方に差し出し、私はその手を掴む。彼にひかれてその小屋に近づいていく。小屋の前に立ち、彼はドアに手を伸ばす。  キィ、と小さな音を立てて、ドアが開いた。暗くてよく見えなかったけれど、カチ、と音がして部屋が明るくなる。そこに広がっていたのは、異様な光景だった。そこで私は彼の話を聞き、その秘密から逃げられなくなった。といっても、強制されたのではない。私自身が、それを秘密にして、彼と共有し続けたい、と思ったのだ。
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