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 うーん、と伸びをして、私は目を覚ました。一人暮らしの私の部屋のベッドの上だ。開いたままの窓からチュンチュンと、小鳥のさえずる声が聞こえる。外は明るく、何だか昨夜の出来事が夢だったみたいに感じるけれど、でも事実だ。私はベッドから出て、洗面所に向かう。今日はいつものように大学に行く日だ。顔を洗いながら、彼が昨日言っていたことを思い出す。  「このことを打ち明けたことはある…でも、その人はこのことを知って、逃げてしまった。君は、逃げずにこの秘密を守ってくれる?」  勿論私は頷いたけれど、こんな秘密は誰にも言えないと思うのと同時に、逃げたくなる気持ちも分かった。それほどの秘密なのだ。けれど逆に言うと、こんな秘密を共有しているからこそ、私と彼とのつながりは、他の誰よりも、強いものになる。だから私は、すごく嬉しかったのだ。  私が頷いた時の、彼の嬉しそうな、そしてほっとしたような顔。「君ならきっと僕のことを受け入れてくれる、君を見ていてそう思ったんだ、だから」と、気持ちを伝えてくれた彼の少し照れくさそうな顔。  幸せな気持ちでそんなことを思い出しているうちに、いつの間にか大学の近くまで来ていた。それに気付いた途端、少し憂鬱な気持ちになる。できるだけ周りを見ないようにしながら校門をくぐり、中に入る。彼と付き合うようになって以来、視線が痛いのだ。それほど彼は、大学の中で人気があった。彼が付き合い始めたその相手が私だという話が広まり、単にちらちらと見てくるだけならともかく、あからさまに睨み付けるような視線を向けてくる女性も多かった。大学内でも彼と一緒にいるときは、さすがに露骨にそんな視線を向けてくる人はいなかったけれど、それでも気が重くて、彼と会うのはできるだけ大学の外にいるときにしていた。そもそも学年が違うから、大学内では意図しない限り会うこともほとんどない。  結局その日も、ほとんどうつむいたまま、人と話もせず、大学を出た。人と話をしないというのは以前から同じだという事だけは、少し救いだった。そして何より、大学を出れば、彼と会える。いつも大学の中ではなく、大学の外で待ち合わせをしているのだ。大学の中では重い気持ちになり、大学を出ると明るい気持ちになる、感情的に忙しいけれど、でもそんな毎日が、私は幸せだった。  けれど。
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