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 私のベッドで彼が眠っているのを見て、なんだか不思議な気持ちになった。ただ、幸せな気持ちにはまだなれない。心配な気持ちの方が強い。やはり、大丈夫だと信じるしかない。  儀式は、無事にできた。書物を調べるのに何日もかかって、大学を暫く休むことになったけれど、それでも彼のために私は必死だった。上手くいっているはずだ。後は彼が目を覚ましてくれれば。ただ。  うぅん、と小さなうめき声が聞こえ、私は驚いて顔をあげ、彼の顔を見る。彼はゆっくりと目を開けた。  「よかった…!」  私の声に、彼はゆっくりと首を傾け、こちらを見る。「ここは…?」  涙が出るのを抑えられないまま、私は、「ここは私の家だよ、ずっと寝ていたんだよ」と言った。  彼は、しばらくぼんやりした顔をして、それから、あぁ…と声を出した。  「僕は君を守って刺されて…」  「その後のことは覚えている?」  私の問いに、彼は少し考える仕草をして、思い出せない、と小さな声で言った。  私は、ものすごくホッとした。よかった。これで大丈夫だ。私は彼に説明する。  「そう、私を守ってあなたは刺されて…。私がずっと、ここで看病していたの。本当に、本当によかった」  嘘は混じっているけれど、気持ちは本当だ。ありがとう、と彼が言う。私の方こそ、と私は答える。  「あの女の人は、逃げていったから、どうなったのか分からない。でも、あなたの秘密が知られると困るから、警察には言っていないよ」  「でも、それだと、君は…」  「ううん、きっと大丈夫。あなたがいてくれれば、きっと」  「それでいいの?危険じゃない?」  「うん。いいの。大丈夫」  そう、それでいい。私が彼を生き返らせたという事は、そしてそのためにあの女を生贄にしたという事は、彼には絶対に秘密なのだ。
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