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5.ジャムった感情
『ゴーーーーン』
鐘が、スローモーションのようにゆっくりと鳴り響く。
過去の経験から助かる方法を模索しようと、走馬灯が駆け巡る。
ゲーム画面、通学路、ジャムパン、
ゲーム画面、通学路、ジャムパン……その繰り返し。
私の薄くて灰色のアルバムに、時折通学路の桜のピンクが映し出される。
どうせ死ぬなら、お花見という選択肢はアリかもしれない。
『ゴーーーン』
でも、花より団子、最後の晩餐代わりにアフタヌーンティーも捨てがたい。
ベタ甘いジャムパン漬けの日々の、口直しに。
私が小さい頃ジャムパンが好きだったからって、母はそればかり買ってきたし、私も惰性でそれを買い続けてたっけ。
おかげで乙女ゲーに随分お金を回せたけど。
『ゴーーン』
四つ目の鐘が鳴っている。
花見か、アフタヌーンティーか、まだ決心がつかない。
こんな状況でなおも優柔不断な自分に嫌気がさすと同時に、これこそが私なのだから、認めてあげたいような気持ちにもなったり。
甘ったるいジャムパン、
ベトベトのジャムパン、
そのくせ生地はパサパサのジャムパン、
その合間を軽やかに舞う桜の花びらーー。
ジャムパン、ジャムパン、ジャムパン、桜の花ーー。
怒り、悲しみ、やるせなさと、手に届かぬ儚い美ーー。
同じ場面を繰り返す中で、違和感に気づく。
そういえば……桜の花をこんなに覚えているのに、どうして「あれ」は記憶にないんだろう?
もしかしたら……見つけたかも知れない。
この世界に穴を開ける『バグ』の種をーー。
確信はないけれど、賭けてみる価値はある!
『ゴー……』
五つ目の鐘が鳴ろうとしている。
「待って! 私、決めたから!」
その瞬間、背景がモノクロに変わり、鐘の音がやんだ。
カウントダウンが一時停止したようだ。
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