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先生が私の瞳を覗き込む。
「心は決まりましたか?」
「ええ、でも……一つだけ確認させて」
私は会長に向き直り、尋ねる。
「お花見って、 ソメイヨシノの花であってますか?」
会長は一瞬考える素振りを見せた後、「そりゃお花見と言えばソメイヨシノに決まっているだろう」と爽やかに笑った。
私が「決まりました」と言うと、二人は再び私に手を差し出す。
「俺の庭で、花見するんだよな?」
「私のサロンで、お茶をしませんか?」
私は、先生に頭を下げ、生徒会長の前に歩み出る。
「俺を選ぶんだな? では選択肢を読み上げろ」
会長に言われ、私は、自分に提示された二つの選択肢を見据える。
(自信を持て! 自分が選び抜いた選択肢だ!)
ふぅーーっと息を吐き出し、私は口を開く。
「夏にソメイヨシノのチェリージャムを作ってくれるなら、『お花見がいいな』」
「うん?」
想定外の枕詞に先輩は一瞬戸惑ったようだが、すぐに通常運転に戻った。
「そんなことならお安い御用だ」
(よし! 言質はとった!)
私はガッツポーズをする。
もちろん勝算はあった。
選択肢を却下するというプログラミングは、されていないはずだもの。
先生が横から、気まずそうに会長に話しかける。
「あのぅ、お言葉ですが……」
「なんだ?」
「ソメイヨシノは結実しません」
ーーやった! 予想的中!
桜の通学路でサクランボを見た覚えがなかったんだ。
「桜は『自家不和合性』と言って、自己受粉できない性質を持ってます。そのため通常は別の木の花と交わり受粉しているのですが、ソメイヨシノは同じ遺伝子を持つクローンのため、自然繁殖できません」
先生の説明に、会長は口に手をやる。
「む……確かに、接木で増えると聞いたことがあるな」
全ては予想通りに進んだ。
エリート志向の理央会長なら、実益に直結しないことについては無関心だと踏んだ。
そして阿賀辺先生も、専門のこととなると熱い漢だと思ったんだ。生物教師としてのレクチャーもバッチリだ。
逆ハーを極めた私の目に狂いはなかったのだ。
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