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奥では赤髪マッスル男子の育田君と会長が喋っていた。
「しっかし会長さんよぉ、オレらまで生かしてよかったのか? 食料までくれちゃって……」
「その分しっかり働いてもらうさ。ーーって、冷てっ!」
会長の柔らかスマイルに見惚れた私は、彼にお茶をこぼしてしまった。
「ご、ごごごめんなさい!」
慌ててハンカチを会長の胸元に押し当てる。
その様子を見ていた育田君が「そーいえば、灰岡、イヴじゃなくなったんだよな? ってことは、今フリーなのか?」と覗き込むと、会長は「おい!」と鬼のような形相で彼を睨んだ。
育田君は「くわばらくわばら。じゃーまたな、灰岡〜」と私にだけ別れを告げ、そそくさと立ち去った。
会長は私を抱き寄せると、耳元で「全員に杯は渡ったか?」と聞いた。
「は……ハイぃぃ」
鼓膜にダイレクトに響くイケボに身悶えする私をシートに座らせ、会長は中央に歩み出た。
彼はステージに立つと大きく咳払いし、声を張り上げた。
「諸君! 本日は学園最期の花見を楽しんでくれたまえ!」
『最期の花見』という会長の言葉にざわめく生徒たち。
「案ずるな、悲観しているのではない。前向きに考えた結果、桜を伐採し、ここに畑を作ることにした。外気から守られたこの土壌を、最大限活用するのだ!」
「え、この桜、会長の誕生記念樹じゃ……?」
なおもどよめく一同に、会長は熱弁する。
「良いのだ。この桜では種は継げないからな。一斉に花開くソメイヨシノのように、我ら一蓮托生、命の限りあがこうではないか!」
会長の演説に沸く会場に、ハラハラとピンク色の花びらが舞う。
ソメイヨシノのように、みんなと一緒に思いっきり咲いて、潔く、美しく散れたならーーそれはとびきりに良い人生だったと言えるんじゃないかしら。
精一杯、咲き誇ろう! この命が散るその日までーー
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