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6 ばかのひとつ覚え
がんちゃんは登校するなり、ヒロシと小野に告げた。
「おれ昨日、家にあったことわざ辞典を読んでみた」
「ふんふん」
「うんうん」
「それで、ひとつのことわざを覚えたんだ。それは、ばかのひとつ覚え」
「へええ」
「どういう意味なの?」
がんちゃんは自慢げに言う。
「ひとつのことだけを覚えて、それをどんな場合でも、得意になってふりまわすことをいうんだ」
ヒロシは思案する。
「ふーん。難しいね」
小野が訊ねた。
「がんちゃんは理解したの?」
「当たり前だ」がんちゃんの鼻息は荒い。「おれにかかれば、どんな難しいことわざでもへいちゃらさ」
「さすががんちゃん」
「さすが」
「それだ!」がんちゃんは指摘する。「いつもおれがなにか優れたことを言うと、おまえら二人は、『さすががんちゃん』と誉める。それが、ばかのひとつ覚えだぞ」
「あ」
「そ、そっか」
「花の当番」窓際の鉢植えを眺めがんちゃんはわめいた。「いつもパンジーばっかり植えるな。ばかのひとつ覚えだ」
がんちゃんは立ち上がり、教室の後ろに行き、掲示板を見る。
「新聞係。この〈今月の行事〉、いつも載っているがつまらないぞ。変化をつけろ。がんちゃん特集とかな。ばかのひとつ覚え」
クラス中が何事かとがんちゃんに注目する。
「ほらほら。いつも窓が半分開いている。換気のためかなんか知らんが、ばかのひとつ覚えだ」
がんちゃんは大張り切り。
「先生が来るまでいつもいつもおしゃべりするな。学校は勉強の場。自習しろ、自習。おしゃべりなんて、ばかのひとつ覚え」
続ける。
「金魚の水槽、たまには違う場所に移動しろよ。変化がないぞ。ばかのひとつ覚え」
さらに続ける。
「学級文庫。小説ばっかり入れるな。おれはマンガが読みたいんだ。〈世界名作文学〉ばかりじゃ、ばかのひとつ覚えだぞ」
がんちゃんはわめきまくる。
「ばかのひとつ覚え」
「ばかのひとつ覚えだ」
「ばかのひとつ覚えだぞ」
ヒロシが小野に言った。
「なあ、小野。がんちゃん……」
「ああヒロシ、そのとおりだよ。がんちゃん……」
二人は声を合わせた。
「ばかのひとつ覚え」
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