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僕たちは静香と麻衣がいないまま、ステージに上がった。
「中田、私がピアノを弾くよ。あんなに上手くないけどさ」
静香の仲間の女子、草加まどかが僕に言った。
「そうだな。頼む」
僕は草加まどかにピアノを頼んだ。そして僕が指揮台に上がった。
~ それでは3年1組の合唱です。曲は・・・ ~
「ちょっと待った!!」
その時、静香と麻衣が体育館に駆け込んできた。またどよめきが起きた。長かった静香の髪が肩上まで短くなっていた。
麻衣は小走りでステージに上がり、草加まどかに代わってピアノの席に着いた。静香は短くなった髪を細かく揺らしながら指揮台の上にいる僕の元に駆けつけた。
「どけ! オレの場所!」
「静香・・・」
「佐倉に髪を切ってもらったんだ。オレの校則違反の髪のせいで、合唱の評価が下がったりしたらやだからな。絶対に3組には勝つ」
「佐倉さんに髪を切らせたのか」
「ああ。これであいこだろ」
全員定位置に着いた。指揮台の上の静香の手が上がり、麻衣の伴奏が始まった。まぶしい照明の当たるステージの上で僕たちは歌い出した。
騒動など何もなかったかのように、スムーズで清らかな歌声とピアノの共鳴音が体育館を包み込んだ。静香は練習の時とは全く違う指揮をした。それは僕たちに新鮮な驚きを与え、僕たちの緊張感を解き、僕たちの潜在能力を最大限に引き出させた。静かに、時には空気を揺らしながらフォルテシモのハーモニーが体育館に広がった。僕は体育館の景色が海色に染まってゆくように感じた。そして僕たちは異次元の完成度で『君とみた海』を歌い切った。
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