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「仕事はどう?」
午後9時のマックでハンバーガーを食べながら、静香がトオルに訊いた。
「俺なんかまるでゴミ扱いだ。中学生のころが懐かしいよ。でもこれが俺の選んだ道だ」
薄汚れた額を手の甲で拭いながらトオルは言った。トオルは下町の小さな溶接工場で昼間働き、夜に夜間高校に通った。
「仕事をしながらでも俺、猛勉強して絶対に国立大学へ進学してやるよ。だから俺が国立大学に合格したら、俺と結婚してくれないか?」
「相変わらず、無茶なこと言うなあ」
そう言って静香が笑うと、トオルも笑った。
*
たくさんの生徒が木漏れ日が漏れる坂道を学校に向かって歩いていた。僕と麻衣は彼らに紛れながら二人で並んで歩いた。僕はふと立ち止まり、麻衣を見た。麻衣も歩みを止めて、僕を見た。僕が何も言わないでいると、麻衣は微笑んで頷いた。まるで僕が何を言おうとしたことを察したように。
僕たちは何も言わずに再び歩き出した。もう僕たちは一年間もずっとそばにいる。静香の言った通り、僕たちは付き合っているのと同じことだった。でも僕は言えていなかった。『僕と付き合ってください』との一言を。
僕はまた立ちどまった。そして言った。何も変わるはずのが無いのに、全てが変わってしまうようでずっと口に出せなかったことを。
「僕と付き合って下さい」
僕ははっきりとそう言った。戸惑った標準的でしばらくの間僕を見つめながら、麻衣は目に涙を貯めた。それから深く頷き、涙を拭って微笑んだ。
「ありがとう。私、嬉しいです」
それから僕たちはしっかりと手をつないで歩き始めた。
-完-
『エンドレス☆ワルツ』
~少女たちの羅針盤~
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