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エイプリルフールの嘘
「お願い、私の彼氏になって!」
桜がひらひらと美しく舞い、そこから日の光が
私たちに差し込んだ。
人々がわいわいと花見を楽しんでいるなか
私は目の前の男子に告白をしていた。
「えっ?」
私の幼なじみである深山陸空は驚いたように切れ長の目を丸くした。
黒髪をセンター分けにした髪型がよく似合っていて
綺麗を通り越して色気が溢れ出ていた。
こないだも芸能事務所の人にスカウトされてたなぁ。
(本人は目立つの苦手だから断っていたけど。)
陸空の頬が朱色を帯びて動揺したかのように
視線が落ち着かない。
そして意を決したように私を見つめる。
「陽菜ちゃん、
それって……僕のこと好きってこと…?」
見た目とは裏腹にオドオドとした口調で聞いてくる。
「違うよぉ」
否定すると陸空はガックリと肩を落とした。
なんでだ?まぁいいや
「実は、先週別の学校の
友達と遊んでるときに恋バナしてたら
みんな彼氏がいること判明してね、つい私も彼氏いる!って言っちゃったのっそのときに証拠として陸空の写真見せちゃって〜あはは…」
「……そう、なんだ…」
「だから、今日だけ私の彼氏になってくれない?
ここに呼んだのもそのためなの」
「えぇっ……でも…」
困ったように頬を掻く。
そうだよね。いきなり言われたら
こんな反応になるよねぇ…
「ごめぇんっ! 何でもするからー! みんな私に彼氏いるって信じてるのよ!! ホントは彼氏いない歴=年齢なのにぃぃっ!お願い!!」
今さら彼氏いないなんて言えないっ!
手を組み合わせ身を乗り出す。
「わっ」
顔が近づいて驚いたのか陸空が少しだけ反けぞった。
「……わ、分かったよ。陽菜ちゃんのことだし
友達が実際に僕を見てみたいとか言ったんでしょ?」
さすが陸空!物分かりがいい!
「ありがとうっっ!
この恩は一生忘れないからっ!!」
陸空は優しい笑みを浮かべた。
ホント天使。ホント神。
「おーい!陽菜ぁっ!」
名前を大きな声で呼ばれて
振り向くと友達三人がこちらに向かってきていた。
「あ、みんなっ! いい? 陸空。
スタンバイよろしくっ」
陸空は震えながらも頷いた。
昔から、ビビりなんだよなぁ
大丈夫かな。
「こ、こんにちはっ!僕は陽菜ちゃんの幼なじみでクラスメイトで か、か、彼氏!の深山陸空です。よろしくお願いしますっ」
うん、すごい緊張してるね。
「えへっ 彼氏の陸空でーす♡」
私は陸空の腕に絡みついた。
ちょっと陸空、ビクっとしないで!
バレちゃうから!
「嘘っ、すっごいイケメンっ!!写真よりも!!」
「まさか、ホントに彼氏がいるとは…」
「芸能人かよっ。ヤバっ」
驚いてる様子の友人達に、私は自慢げに笑った。
「えへへー!付き合って2年目なのー!
そうだよね陸空」
目でイエスと言えと圧をかける。
「え、は、はい。2年目です。陽菜ちゃんは、昔から明るくて…優しくて。小学生の頃、仲間はずれにされて泣いていた僕を励ましてくれていじめっ子に怒ってくれたのを今でも覚えています。僕はきっと陽菜ちゃんのそんなところが好き…なん、です。」
( …っ )
……いつもはオドオドしてる陸空が
恋をしたような表情で私への想いを
スラスラ話している。
ちょっとドキッとしちゃった。
すごい演技力じゃん!憑依型俳優だね!
「かぁ〜っ!!イケメンにこんなに愛されてるなんて羨ましいぃぃっ!!!ウチの彼氏もこんな顔だったら!!」
「マユったら高望みしすぎよぉ。でも素敵ね。
今の表情、完全に恋する乙女ならぬ恋する男子だったもの!」
「そ、そんなことは!」
陸空が茹でダコみたいに真っ赤になる。
私たちを静かに観察していたユキは
「うーん、どうも演技っぽいんだけどなぁ。彼氏くんからは好きって気持ちを感じるんだけど、陽菜からは…うーん……」と疑うように首を傾げた。
ギクッ。
演技力の無さが仇に…。
「なに言ってるのよユキ。
そんなわけないでしょー?二人きりの時はきっとイチャイチャしてるわよ〜うふふ」
レイナが上品に笑う。
「あ、あはは。そうだよぉ!気のせいだよ〜!
陸空だぁーい好き」
「かぁーっ、惚気も大概にしろーっ」
「お似合いの二人ね」
ホッ。
良かった。
マユとレイナのおかげで
ユキも気のせいかなと笑ってる。
「陸空、ありがとね」
なぜか耳が赤い陸空にこっそり囁く。
陸空は曖昧に微笑んで
「陽菜ちゃん、言っとくけど
さっきの言葉は嘘じゃないからね?」
えっ?
さっきの言葉って?と尋ねる前に陸空は
友人達に呼ばれて花見のシートに
戻っていってしまった。
まさか、あれは演技なんかじゃなくて……。
いやいやいや! 考えすぎだしっ。
でも、もし本当だとしたら…
ってか
もしもとかないから!
私はある可能性を振り払うように首を横に振った。
「陽菜ちゃん!一緒に食べよ?」
綺麗な顔で笑う陸空に私は「うん!」
と釣られて笑顔を浮かべた。
「なるほど、そういうことね」
ユキがボソッと呟く。
「え?」
「何でもなーい」
私はまだ陸空の発言とユキの納得したような表情の意味をまだ知らなかったのだった。
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