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キッチンの壁に、一つの日めくりカレンダーがある。
その日めくりカレンダーには大きく“21日”と書かれている。
時刻は23時14分。
私は日めくりカレンダーをそのままに、キッチンを後にした。
数分後。
「今日は21日か」
キッチンに入ってきた蒼太が大きめの独り言を漏らした。
日めくりカレンダーを気にしているのは、この家では蒼太ぐらいであろう。
家族は日めくりカレンダーを頼りにしてはいるが、めくる行為を完全に蒼太に任せていた。
蒼太にとって、それは苦ではなかった。
薄い紙の感触。
切り取る時の心地の良い音。
新しい一日が始まる清々しさ。
普段は朝起きた時にカレンダーをめくるのだが、その日、蒼太はまだ0時を越していないタイミングでカレンダーを一枚切り取った。
そういう気分だったのだろう。
“22日”の文字を見て、蒼太は満足した顔を見せると、キッチンを去って行った。
21日は、くずかごへ捨てられた。
その数分後。
「今日、22日だったんだ」
瑠璃さんがキッチンへやってきた。
日めくりカレンダーに目をやって、小さく呟く瑠璃さん。
瑠璃さんは真夜中にしか一階に降りてこない。
だから、私はほとんど瑠璃さんに会わない。
食器棚からグラスを取り出し、冷蔵庫を開ける。
冷やされたアセロラジュースをグラスに注いでから、瑠璃さんは冷蔵庫を閉めた。
ジュースを飲みながら、瑠璃さんは日めくりカレンダーにそっと触れた。
もうすぐ日が変わる。
そう思った瑠璃さんは、日めくりカレンダーを一枚めくった。
滅多にしないことを行うことで、家族に貢献しているような気になっている。
カレンダーが示す日付は“23”。
瑠璃さんは22日を丸めて、くずかごへ投げ入れるとキッチンを後にした。
数分後。
「もう23日か」
キッチンへやってきた翠月さんが、日めくりカレンダーを見て伸びをしながらそう言った。
翠月さんは夜勤が多い。
生活リズムは健康的とは言えない。
冷蔵庫を開け、何か食べ物がないか物色している。
だが、冷蔵庫の中身は飲み物だけで、翠月さんの空腹を満たすものはなさそうだ。
ため息を吐く翠月さん。
冷蔵庫を閉め、キッチンの出口へ向かった。
その時、翠月さんは日めくりカレンダーに目を留めた。
そっと、カレンダーに触れる。
そしてゆっくりと、“23日“と書かれた紙をめくった。
普段カレンダーなど気にも止めないが、もうすぐ明日になるため、その場に訪れたついでに、翠月さんはちょっとした仕事をしようという気になったのだ。
翠月さんはめくった23日をくずかごへ捨てて、キッチンを出た。
時刻は23時52分。
私はキッチンへ向かう。
そして日めくりカレンダーを見た。
“24日”の文字を見た私は、小さく吹き出してしまう。
「随分と、急いだ生き方をしているんだなあ」
私は口角を上げたままそう呟いた。
そしてくずかごを漁り、捨てられた日々を拾い上げた。
私は三枚のめくられたカレンダーをポケットに仕舞い、壁に掛けられた日めくりカレンダーを外した。
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