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助けたつもりはないし、むしろ女子のコミュニティに対して暗黒騎士ふぜいが干渉できる必殺技なんて持ち合わせていなくて、無力を痛感していた。
一乃々佳はいつも僕の前では明るく振舞っているけれど、本当はすごく苦しい中学生活だったんだろう。って。そう思っても僕ができることはここで一乃々佳と一緒にいて、彼女の笑顔を引き出すことくらいしかできなかった。
正確には僕は盟約を守れなかったんじゃないか、そんなふうにモヤモヤした気持ちがずっとあった。
「なあ一乃々佳、暗黒騎士はあのときの盟約守れてた?」
「うん。魔法少女は弱かったけど、きっと暗黒騎士がいなかったら耐えられなかったよ」
「そっか。それなら一応誓いは果たせていたのか……」
「よし! じゃあ新桜木の盟約始めよう。わたしは嘘つきに生まれ変わる。そう、わたしはこれから暗黒魔法少女になる!」
あの時のステッキまだ家にあったかなぁ。と一乃々佳は指先を顎に当てていた。僕の暗黒騎士時代の剣はまだあるけれど、さすがに持ってこようとまでは思わない。家の塀に囲まれて誰にも見られないとは言っても恥ずかしくて、嫌だ。
「ほら、ヒカルくんもまた何か誓いを立ててよ」
「え、僕も?」
「当たり前じゃん」
「そうだなあ、じゃあ僕は聖騎士にでもなろうかな」
「ふざけないで!」
一乃々佳は思いのほか真面目に僕を叱りつけた。
「わたし、本気なんだから。暗黒魔法少女になって、魔法の力でメタモルフォーゼして、高校生活では上手くやるの」
「じゃあ、僕は……暗黒魔法少女を助けたい。聖なる力で、暗黒面に落ちた魔法少女を救う」
僕はあの時のように力強く立ち上がって、真っすぐ一乃々佳を見つめた。
春らしく、ふいに突風が吹いた。
ソメイヨシノもこの盟約に頷くように花々を揺らし、一乃々佳はスカートを手で抑え、瞳がきらめいていた。
「ステッキ探してくる!」
一乃々佳は風に乗って自宅へ走って行ったので、僕も自宅へ戻り、押し入れの奥から暗黒騎士の剣を取り出した。
僕が剣を携え庭に戻ると、一乃々佳がベンチでステッキを構いながら座っていた。
「あれ、おっかしいな」
ステッキの柄にはボタンが付いていて、押すとピピピと光りながら電子音を放つのだが、どうやら電池切れのようだ。
「お、暗黒騎士じゃん! またわたしとバトルする?」
「アホか。剣持ってるだけでも恥ずかしいんだが」
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