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こうやって気丈に振る舞う一乃々佳にとって、中学生活はよっぽど暗くさみしいものだったのだろう……。そう思い、励ます。
「そうだな、きっと上手くいく。嘘は暗黒面の技。それを会得した暗黒魔法少女ならきっと大丈夫」
「……それで、ヒカルくんも誓うんでしょ」
「ああそうだったね」
「僕は暗黒騎士の鎧を脱ぎ捨てて、聖騎士になるよ」
「わたしは暗黒面に落ちたのに、今度はヒカルくんが神聖な者になるなんて残念」
「やめとく?」
「ううん、そうじゃない。暗黒面の仲間同士だったらバトルできないし」
「まだ争う気?」
「あったりまえじゃん。敵同士が共闘する場面があるから熱いんだよ」
「じゃあ僕は聖騎士として…………」ここで、聖騎士として一乃々佳を守るなんて言ったら、まるで告白しているみたいだ。
「わたしがピンチのときに救う」
一乃々佳がつまる僕の言葉の先を言った。
「それでね、わたしも聖騎士がピンチのときに救う。昔と同じ。それでいいの」
それでいい。でも、違う。僕は、僕は……君のことが……。
「はいっ、じゃあ昔みたいに桜木の盟約するよ」
一乃々佳はソメイヨシノの下で幹に向かってステッキを天に突き上げた。
「ほら、早く」
一乃々佳は僕を急かすけれど、この盟約は昔と違う。遠くに行ってしまう一乃々佳を僕が守ってあげることなんてできっこない。到底約束できる代物ではない。これでは僕が嘘つきじゃないか。聖騎士たるもの、真実に忠実であるべきではないのか。
「……きない、できない!」
「なんで?」
「僕は君を救えない」
「いいよ、べつに」
彼女は本当に暗黒面に落ちてしまったらしく、僕に嘘をついてもいいと。嘘をつくなんて当たり前。そう言っているようにも聞こえる。
「ダメだよ」
「聖騎士さんって真面目だね」
「暗黒魔法少女が不真面目なだけさ」
「だったらね、わたしがまた聖なる魔法少女に戻れる場所を守ってて」
「わかった」
僕はプラスチックのチープな剣を掲げる。
いつからか僕より背の低くなった一乃々佳は背伸びをして、僕の剣のきっさきに届かず、刀身にコツンとステッキを当てた。
桃園の誓いのように、この桜木の盟約も果たされないのかもしれない。それでも、僕は一乃々佳が戻ってこれる場所を守っていようと強く心で誓った。
「一乃々佳、高校生活、上手くいくといいね」
「うん、きっと大丈夫。いつだってヒカルくんがわたしを守ってくれたから」
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