光る花びらを探せ

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 20人分の皿やコップがそのまま残ったテーブル。食べかすの散った畳。キッチンコンロは油ギトギト。使った鍋もボウルもシンクに山盛り。  鈴子はため息をつきながら腕まくりした。 「ともかく、これで来年からここでのお花見は回避ね」  竜也はぽかんと口を開けたまま、首をかしげた。 「……鈴子さん、何かしたの?」 「どうせ向こう100年出現するはずのない眉唾話でしょ。だったら先に仕掛けちゃおうかなって思って」 「え……」 「でも青白く光るなんて言われても、私にはウルトラマンのタイマーしか思い浮かばなかったのよね」 「えええ」 「あとはあの優作君、いいタイミングで叫んでくれたわ……『天国』って。本人、どうしてそう言えって言われたのかわかってないみたいだけど」  竜也は吹き出した。鈴子も肩をすくめて笑った。 「素直な奴らしいとは思ってたけど」 「でも先行き大丈夫かしらって思っちゃう」  そのとき、ドアホンが鳴った。出てみると、当の優作としのぶだった。 「あの……慌てて出てっちゃったけど、片付け、してなかったから」  二人は上がるや否やごみを集め、拭き掃除をし始める。鈴子と竜也は顔を見合わせた。 「――先行き、そんなに悪くないかもね」  これから運動会も花火大会も納涼祭もあるそうな。でも社員の家族だからってボランティアを強制されるのは面白くない。そういったことを気づいてくれる若手がいるだけでも頼もしい。 「こういう変な慣習、未来には変わってるといいなあ」 「お花見は、元来楽しいはずだもんな」 「ポテトサラダも唐揚げもまだ大量に残ってるわよ。つまみながら楽しい花見酒と行きましょうか?」 「お。いいねえ」 「春香、海、いらっしゃい。優作君もしのぶちゃんも」 「優作?」 「しのぶ? 誰?」 「あはは、まだ名前聞いてなかったわね。ともかく、ベランダで一緒に食べよう」  風が出てきた。  桜というのは、満開はもちろん、咲き始めでも三分咲きでも散り際も見甲斐がある。風にあおられた花吹雪もまた、おつなものだった。      (終)
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