光る花びらを探せ

8/10
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「あ、光った!」  誰かが言った。みな一斉に桜に目を移す。暗闇で浮き上がった桜の白さの中に、別の色―― 「ほ、ホントだ!」 「俺にも見えたぞ……青っぽい?」 「うん、青白い」  皆が乗り出したが、何せ狭いしギュウギュウだし、誰もがどうにも身動きが取れない。  唐突に、どさっと重たい音が響いた。 「な、……何、今の音」 「何か落ちた?」 「桜の辺りじゃない?」  鈴子はさっと立ち上がり、飛び出した。というか、動ける状態なのが鈴子のみの、ラッシュアワー電車並み圧縮状態。  庭に出た鈴子は、桜の木の裏側で何かをゆっくりと持ち上げ、窓に向かって掲げて見せた。部屋の面々は目を凝らしたがそれが何なのか、暗くて良く見えない。 「……猫と、……鳥です。……木から、落ちたようです」 「バカな。猫は落ちてもちゃんと着地するはずだ。鳥には羽があるだろ」 「けど、これは確かに」  オバチャンが懐中電灯を持ってきて、庭の鈴子へ光を当てる。鈴子の手の中にはまさしく大ぶりの猫と鳥。それもどちらもびくとも動かない。 「最高の場所って……もしか天国ってこと?」  独り言にしては明瞭に響いた声は、優作のものだった。その一言で、場が氷河期に。 「ま、……まさか一番近くで花びらを見たから猫らがああなった……とか」 「そ、そんなわけはない。30年前それを見た人は、出世コースに乗って――」  支店長が慌ててそう言ったが、その社員の以降の動向は誰も知らなかった。 「まさか。もしや」 「だって。ねえ」  桜の隙間の、わずかな青白い光は、誰の目にも確認できた。が、もう見ようとする者はいない。  にわかに騒がしく慌ただしくなり、「あ、私もうそろそろ」と支店長が辞して、次々と社員が続き、独身寮のオバチャンとAさん妻も追い、あっという間にお開きとなった。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!