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「あ、光った!」
誰かが言った。みな一斉に桜に目を移す。暗闇で浮き上がった桜の白さの中に、別の色――
「ほ、ホントだ!」
「俺にも見えたぞ……青っぽい?」
「うん、青白い」
皆が乗り出したが、何せ狭いしギュウギュウだし、誰もがどうにも身動きが取れない。
唐突に、どさっと重たい音が響いた。
「な、……何、今の音」
「何か落ちた?」
「桜の辺りじゃない?」
鈴子はさっと立ち上がり、飛び出した。というか、動ける状態なのが鈴子のみの、ラッシュアワー電車並み圧縮状態。
庭に出た鈴子は、桜の木の裏側で何かをゆっくりと持ち上げ、窓に向かって掲げて見せた。部屋の面々は目を凝らしたがそれが何なのか、暗くて良く見えない。
「……猫と、……鳥です。……木から、落ちたようです」
「バカな。猫は落ちてもちゃんと着地するはずだ。鳥には羽があるだろ」
「けど、これは確かに」
オバチャンが懐中電灯を持ってきて、庭の鈴子へ光を当てる。鈴子の手の中にはまさしく大ぶりの猫と鳥。それもどちらもびくとも動かない。
「最高の場所って……もしか天国ってこと?」
独り言にしては明瞭に響いた声は、優作のものだった。その一言で、場が氷河期に。
「ま、……まさか一番近くで花びらを見たから猫らがああなった……とか」
「そ、そんなわけはない。30年前それを見た人は、出世コースに乗って――」
支店長が慌ててそう言ったが、その社員の以降の動向は誰も知らなかった。
「まさか。もしや」
「だって。ねえ」
桜の隙間の、わずかな青白い光は、誰の目にも確認できた。が、もう見ようとする者はいない。
にわかに騒がしく慌ただしくなり、「あ、私もうそろそろ」と支店長が辞して、次々と社員が続き、独身寮のオバチャンとAさん妻も追い、あっという間にお開きとなった。
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