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桜の花が一斉に芽吹いてから数日が経った。
ぼくは彼女を見つめていた。
声をかけようとは思わない。いや、思ってもできないので思わないようにしただけ。
近いが、遠い。
ぼくたちの距離は、夜天の川で隔てられた織姫と彦星と同じようなもの。
目で見ると近い。でも本当はものすごく遠い。
ちがうのは彼らには年に一度の逢瀬が許されているが、ぼくらは話したこともないということ。
桜の君よ。ぼくは君のことが好きなんだと思う。
―――好きです―――
たった四文字なのに。簡単な言葉なのに。
それでもぼくにはできない。君に伝えることができない。
でも、良かった。今年も会えて。君の姿を見ることができて。
美しい君を見ることができて―――ぼくは幸せです。
その刹那、春の夜の澄んだ空気の中、まん丸のお月様に照らされた君が僕に向かって微笑んでいるように見えたのは、うれしい目の錯覚だった。
翌日、ぼくは人間の手によって切り倒されてしまった。
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