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 その昔、ある若い男女が花見の頃に偶然出会った。二人は、とあるさくら名所でそれぞれの恋人に待ちぼうけをくっていた。  なんとなく、互いにバツの悪い感じがしてどちらともなく目を合わせてしまった。 「待ち合わせですか」男が言った。 「待ち合わせですか」女も言った。  二人とも、同時に同じ言葉を口にし、思わず笑みがもれた。 「待ち合わせしていたけど、相手はもう来そうにないのです」男がうなだれるように言った。 「わたしの方も同じです」  二人がさくら名所の入り口で、手持ち無沙汰にしていたのは、かれこれ小一時間が過ぎていた。男が北の方面から来て、女は南方面からその場所に来た。まるで、彼らが待ち合わせしていたかのように同時に着いていた。だが、彼らは知らない他人だった。  それが今、互いを見つめ合い、距離を縮めるような空気を醸し出していた。      続く
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