場所取り

2

月曜日、あの新人を探したが見当たらずさらに課長は出社していなかった。

思えば、あの新人の彼をこの一年見ていない事に気がついた。
そうだ、あれからすぐに退職したのではなかっただろうか？
去年の事を根に持ち意趣返しをするためにあの場に現れたんだろうか？
だとしたら、今頃は溜飲を下げているかも知れない。

人事部の友人とランチをとりながら私が最初に会った場所取りをしてくれた新人の話をした。

前髪はたらしていて黒縁の眼鏡をかけた青年。

その特徴を伝えると友人の表情が固くなっていく。
友人はまさかといいながら「去年の花見の写真とか撮ってないの？」と聞いて来たのでスマホの写真フォルダーを見ていく。

「特に必要ないから会社の人はあんまり撮ってないんだよね」
フォルダーを確認していくと課の中で比較的仲のいい人たちを撮った写真の奥に項垂れている“彼”の姿が映っていた。

「この子」と言って友人に見せると明らかに顔色が悪くなっていった。

「この子って退職してるよね？」

「本当にその子がいたの」

「そうよ。みんなが先に行って課長と2人で合流しようとしたらその子が手を振っていたの。見覚えがあったし、その子も普通に接していたから。そういえば場所も去年と同じ場所だったかも。去年課長にメッチャ言われていたからやり返したかったのかな？」

「それはおかしいよ」

そして友人が語ったことはとても衝撃的だった。

去年の花見の後、出社してこない新人がいて、一人暮らしだから地方にいる両親に連絡をしたけど、実家にも戻っておらず両親も連絡がつかないということでマンションを訪問したが返答はなかった為、両親の承諾のもと大家と警察立ち合いで部屋の中に入ったら生ゴミの腐った様な臭いがしてロフトの下で倒れて身体全体を覆う無数の虫に覆われた彼をみつけたのだそうだ。
会社に行きたくないという趣旨のメモが残されていた。
外部に知られないように箝口令を敷いて、花見でのことが引き金になった可能性あるとして課長には口頭で注意をしたけど下手に処分をすれば会社に非があったと認めることになるから表向きは4月病として片づけたという話だった。

その後に聞いた話では課長は懲戒解雇となった。
見ず知らずの花見客の酒を勝手に飲んだ挙句、暴力を振るい、その相手は示談を断り起訴をしたそうだ。

そして来年からは花見は中止にすると通達があった。