乙女ゲームの主人公に転生しましたがのし上がるつもりはありません。

1話

『Maid・Rise・Love』

　略して『MRL』

　それは、主人公である妖艶なメイドが自身の体を武器にのし上がっていく、サクセスストーリー。……ではなく、18禁乙女ゲームである。

　生前、愛梨が大好きだったゲームで、余すところなく楽しませてもらった。
　正直なところ、攻略対象よりも主人公のメイドが大好きで、二次創作にまで手を出すほどだった。

　だが、これは一体どういうことなのだろう。

　一度愛梨として死に。
　だがしかし、何故か記憶を持ったまま次の人生を歩み。
　転生先は何故か異世界。
　その上、転生した先の自分の名前は『MRL』の主人公と全く同じもの。

　まさかそんなわけはないだろうと常々言い聞かせてきたが、もう無理だ。

　ついにゲームのオープニング部分と同じ場面が来てしまった。
　ルーナは異動を通知する書類をぎゅ、と握りしめた。
　そこには、通常のメイドから第3王子の専属メイドへと異動を命じる旨が書かれている。

　愛梨改め、ルーナ・ディローザ。18歳。

　今日から第3王子のメイドになります。

（勘弁して……！）

　◇◇◇◇◇◇

　愛梨……もとい今はルーナである彼女が二度目の生を受けた場所は、何百年も続く大きな商家だった。
　王家とも繋がりがあるほどの家で、ルーナは16歳になるまで何不自由無く暮らしてきた。