1話

7/7
前へ
/257ページ
次へ
 珍しいとはなんだ、珍しいとは。  18年間貞操を守ってきた清き乙女に対して言うセリフか!  立場も忘れルーナが思わず突っ込むと、王子はそれこそ珍しく声をあげて笑った。 「ふ……ははっ! 気に入った! お前は僕のメイドに相応しい!」 「……は、はぁ!?」  王子のルーナに対する呼びかけが「君」から「お前」に変化する。  一体何処が『相応しい』ところなのだろう。  こんなシーンはゲームになかった。  本来のこのシーンは、初めて王子と顔を合わせた主人公が、従うフリをしながら王子を魅惑するという(主人公が)緊迫した艶やかなシーンで……。 (え、ちょ、私、ある意味魅惑的なシーンだったのを台無しにしてない!?!?)  混乱して目を白黒させるルーナに、王子は息がかかるほど顔を近づけた。 (うわ! 何!)  さすがメインヒーローとでも言うべきか、王子は抜群に整った顔立ちをしているのだ。  簡単に顔を近づけないでほしい。 「決めた。お前はこれからずっと、僕のモノだ」 (は、はぃいいいい!?)  こんなセリフ、脚本にない。  いきなり本筋からすれてしまった物語に、ルーナは困惑するしかない。  王子から与えられる甘やかなキスを、納得のいかないままにルーナは受け入れざるを得なかった。 (だって、逃げられないいいぃ!)      
/257ページ

最初のコメントを投稿しよう!

177人が本棚に入れています
本棚に追加