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手紙とメダルと
四月、もう桜の花も満開の時分。
ただ一人で屋上から、眼下に広がる夕暮れの街並みをぼんやりと見下ろしていた。
―――だいぶ日が伸びたな。 この間までなら、もうこの時間は薄暗かったのに……
そんなことを一生懸命に考える。 顔を歪めながら必死で俺自身を誤魔化そうと思案している自分があまりにも虚しく感じられて、思わず苦笑してしまった。 頬を撫でてくる風もどことなく冷たい。 春真っ盛りとはいえ、夕方はまだうっすらと肌寒い。
Tシャツの上に羽織っている軍服の左ポケットを探る。 躊躇ったけど、そこに収めているものを取り出してみた。 ハンカチに包まれているそれは、二枚の古いメダルだ。
これを見る度になんとも苦い思いが胸を占める。 まだ幼かった頃のキラキラした思いが、過ぎ去った楽しい思い出が……胸を締める、ギュウギュウと締め付けてくるのだ。
……情けない。 いつまで俺は子供の頃の思いに縛られているのだろうか。とっくの昔に割り切ったはずじゃなかったのか。
何故、今になってこんな感傷に浸って胸を焦がすことになってしまったのか……それは今日がエイプリルフールだったから、である。
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