手紙とメダルと

9/11
前へ
/72ページ
次へ
俺が城に来て二年ぐらいして、一度王様に言われて里帰りしたことがあった。村中総出で大歓迎されて、俺も父さんもあの人も、かなりくすぐったい思いをした。 三日ほど滞在してすぐに城に戻ったが、俺は驚いた。 父さんがとにかく多忙を極めていた。 あちこちで俺のことを自慢していて、それを周りに微笑ましく受け取られているらしい。 日々のあまりもの忙しさの中、息子自慢は父さんなりの励みになっていたのだろう。 村の消防団の会合があったかと思えばボランティア活動に出かけていく。帰って来たと思ったら明後日に開催される子ども食堂の買い出しにいくとまた家をあけた。 今日は父さんは仕事が休みの日ではなかったのか。 父さん、体大丈夫なの? と俺は思わずあの人に尋ね、あの人は寂しそうに笑っていた。 帰る時には、あの人は城の皆にお土産に、と大量にパンを焼いてくれた。 やはり村の皆に温かく見送られ、俺は故郷を後にした。 だけどこれ以後、家から届く手紙の間隔がだいぶあくようになった。 二ヶ月、その次は三ヶ月来なかった。 半年あいたと思ったら、それ以後は音沙汰が無くなった。 それでも俺は手紙を出し続けていた。 返事は出来たら欲しかったけど、来ないなら来ないでも良かった。 俺が元気だということを二人に伝えられればそれでいいと思っていたから。 一度帰ってから三年後、俺が十一歳の時だ。 前任の戦師が闘病の末に亡くなってしまったこともあり、俺は戦師見習いから晴れて戦師に昇格した。 正式に戦師となった記念に、王様は再び里帰りして凱旋して来い! と俺に(いとま)をくださった。 以前は王様やダイと一緒に来た道だけど、今はもう一人で行き来できる。 なんたって俺は正式に戦師になったんだ―――喜びに溢れながら俺は田舎道を駆けた。 以前帰った時は家に連絡を入れていたが、今回は何も告げずにサプライズで帰郷した。 父さんもあの人も一緒になって喜んでくれる、そんなことしか考えられなかった。 ……それなのに。 俺の家があった場所は更地になっていた。 リアルに家が一軒、丸々無くなっていたのだ。
/72ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加