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どうやって帰ったのだか、大して覚えていない。
それなのに、帰り着いたら王様に泣きついたことだけはやたら鮮明に記憶に残っている。
心労ですぐに俺は寝ついてしまったが、その間に城内ではあの人に関すること一切がタブーとなったようだ。あのダイでさえ必要以上に気を遣ってくれた。
周りに気遣わせてしまうのがいたたまれなくなり、俺は一心不乱に修行をしたくてこの後城を開ける。 王様に頼んで、ウェスターに伝わる所謂トップシークレットである『極意』と呼ばれるものを修得に至る。 極意の師匠を紹介していただき、辺鄙な山奥に出向いて、マンツーマンで国の機密の武道を仕込んでもらった。 ……俺が背負うものを、もう一度俺自ら作り出したかったからだ。
『極意取得者』という肩書きはあまりにも大きかった。そのうちにウェスター軍の兵士を直に指導するという講師の任務を与えていただいた。 後輩も出来たし、いつしか教わる立場から教える立場へと変わっていた。
『家が無くなったってんなら、もうここがお前んちだ。 遠慮することなんてない、泣きたい時は泣けばいい』
村から帰った時、王様に抱きしめられて髪をワシャワシャと掻き回されながらそう言われた。 王様の存在がありがたかった。 俺はここで生きていくんだ、そう心を決めた……その反面で。
父さんとあの人はもう帰らないこと、楽しかったキラキラした子どもの頃の思い出は封印せざるを得ないこと……過去のものとして整理してしまわなければいけないことが。 たまらなく辛くて、申し訳なくて……あまりにも心が痛かった。 痛すぎた。
疵は大分癒えた……けど、消えるものではない。 出来るなら触れないでほしい、抉らないでほしいのだ。 そんな自分の我儘を通してしまう辺り、俺もまだまだ子どもじみているのだろうけれど。
城内から屋上に繋がる非常階段のほうで音がした。 イサキから俺の過去を聞いただろうモモが、恐らく謝りにでも来たのだと想定した。 また余計な気を遣わせてしまうことになるのか、そう思うとウンザリとして溜め息が漏れた。
二枚のメダルをハンカチに戻し、再び軍服の胸ポケットにしまう。 やはり屋上まで上がって来たのは、先程俺に嘘の『お母さんからの手紙』とやらを押しつけたモモだった。 どうも俺とダイがへこんだ時はここに来るということは、城の皆が知るところのようだ。
いつまでもへこんでいるのも大人げない……そう思って俺は彼女のほうを振り返った。 階段を駆け上がってきたのだろう彼女の顔は赤く、息が上がっていた。 そんなに猛ダッシュしてきたのだろうか。
「なんだよ」
彼女は俺の傷口に塩を塗りたくってきたが、仕方ない、知らなかったのだから。 それでもこうして来てくれたなら、俺も少しは大人の対応をしなくては……そう思っていたのに。
彼女は俺の予想とは正反対の言葉を俺にぶつけて来た。 完全に想定外、俺の理解の範疇を超えていた。
「親不孝者……っ」
「……は?」
「なにしてんの、なにやってんのよ……! お母さん! ……可哀想じゃないの!!」
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