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理解と涙と
「なんとシンラのお母さんからー!」
モモ姉の発言に、俺は肝が一気に冷えた。 隣りのシン兄を覗きみたら、何か言いたそうにしていたけれどなんとか言葉を飲み込んだみたいだ。 それもそうか……シン兄は事情を知らないモモ姉に、お母さんのことを話題にされたくらいで激昂するほど器の小さい男じゃない。
だけどシン兄はこの話題を流そうとしたのに、モモ姉は食い下がった。
「お母さんからの手紙って……嬉しくないの……?!」
俺はこのモモ姉の言い方で察した。 さっきシン兄にアップルパイの件で吐かれた嘘が『喜ばせておいて嘘でした』という類いのものだったからだ。 モモ姉なりに、シン兄を喜ばせるためのサプライズだったのだろう……実はその方法こそ最悪だったのだけど。
そしてシン兄は、俺に「後頼む」とトンデモな無茶ぶりをよこしてきたのだ。 うわあぁ、責任重大……!
去っていくシン兄を追いかけることを躊躇って見送ることしか出来ないモモ姉に、俺は声をかけた。
「話すから聞いてよ。 モモ姉……多分、今の嘘。 後悔するよ」
それから広間にて、俺はかつてシン兄から聞いていたシン兄の家庭事情を話した。
先代王様にスカウトされたこと。 結果、両親と離れ離れになったこと。 知らない間にお父さんが亡くなっていたこと。 その後お母さんは見知らぬ男性と共に村を去ったこと。 シン兄が送っていた手紙が大量に手元に戻ってきたこと。―――
「俺はシン兄がお父さんの死とお母さんの行方不明を知った七年前、まだ城にいなかったからさ。 当時のシン兄を見てた訳じゃないけど……でもキツかったと思うよ。 宛ててた手紙をまるっと返されるなんて……俺なら心がバッキバキに折れるわ」
そんなお母さんが、今更手紙なんて書いてくるはずないんだ。 嘘にしてもあまりにもタチが悪かった。 ましてや「嬉しくないの?」だなんて。
モモ姉を見ると、開いた口が塞がらないようで、何か言おうとしているけれどなかなか言葉にならないらしい。
「な、だから。 シン兄にとって『お母さん』関連のことはタブーなんだよ。 だから」
「そんなはずない!」
だけど、この空気を読まない天然姉貴は言い張った、いや言い切ったのだ。
「ひどい……なに、シンラも城の皆も。 お母さんのこと、そんなふうに思ってるの……?」
「ひどいって……ひどいのはシン兄のお母さ」
「絶対違う!」
モモ姉が走って行こうとするから驚いた。 えぇえぇ、どこ行くのー? ってまさか。
「シンラに直接問いただす!」
ひいぃぃやっぱり、この姉貴分なら絶対そう言うと思った―――!
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