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俺が本気を出して追いかければ、モモ姉に追いつくことなど容易い。 だけど、基本廊下って走るものじゃないし、大体全力疾走したら危ないよねぇ?! という常識が俺の脚力にセーブをかけた。
「ぅおっ?! あっぶねぇ!」
前を走るモモ姉は廊下の曲がり角、出会い頭にダイ兄とぶつかりそうになった。 だから言わんこっちゃない、と俺は思ったのだけど。モモ姉は軽く後ろを向いて「ごめんなさい」の言葉だけを残し、そのまま走り去ってしまった。 守護すべき王にぶつかりそうになったというのにこれである……! 無敵かこの姉貴分。
「おい……なんだあの爆走ダッシュ」
そして後ろに続いていた俺が、ダイ兄から問いただされる羽目になる。
「いや~……うん。 ほら、今日エイプリルフールだろ。 シン兄がモモ姉に嘘吐いたんだけど……モモ姉悔しかったみたいで」
「おー、本当それ。 俺なんかさぁ、さっきウッキーに。 今日の晩メシは黒毛和牛A5ランクのサーロインステーキだっつわれて。 ィャッホーィからのドンガラガッシャーンだぞマジで」
ウッキーだなんて猿か! との突っ込みが野暮なことは知っている。 我らが王ダイ様ことダイ王様、俺は愛称でダイ兄と呼ぶけれど。 彼がウッキーと言ったのはウェスター参謀のウキョウさんだ。
ウキョウさんとシン兄、吐く嘘の種類が一緒じゃないか、まったく……。
「ダイ兄のドンガラガッシャンはまあいいんだけどさ、ほらモモ姉……知らなかったから。 シン兄に反撃で吐いた嘘が……ちょっと、その。 『お母さん関係』なんだよ」
なるべく簡潔に、なるべく分かりやすく。 俺はダイ兄に経緯を説明した。
「マジかぁ……」
「こんなところで嘘をかますほどKYじゃないよ、俺」
「あそこか、あいつ」
「だと思う。シン兄とダイ兄の指定席だよね。
悪いけど俺行くよ。 モモ姉、気になること言ってたんだ……『シン兄も城のみんなも、お母さんのことそんなふうに思ってるの、ひどい』ってさ」
「……イサキ」
苦い顔をしたダイ兄は、顎と視線だけでモモ姉が駆けて行ったほうを指した。 早く行け、とのゴーサインなことはすぐに察した。
だってあのモモ姉、シン兄にこれ以上何をぶっつけるのだか先が読めない……!
だいぶモモ姉に遅れをとったけど、俺は非常階段から屋上に飛び出した。
「ごめんシン兄! も~……モモ姉ってば……」
しかし時既に遅し。 睨み合っている二人の間には、なんともいえない緊張感が満ち満ちていた。
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