理解と涙と

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「親不孝者、ね……」 シン兄がそう呟きながら、モモ姉を睨みつけた。 ちょっと背筋がゾクッとするような冷たい声だった。 二人ともおそらく、俺が居ることに気がついていない。 お互いしか見えていない感じだ。 あんな射抜くような目でムッキムキの戦闘のプロに見つめられたら、同じく戦師といえ俺だって怖い。 現に俺は思わず一歩後ずさった。 それなのに凄いのはモモ姉で、彼女は更に一歩踏み込んだのだ。 「だってそうでしょ! 長いことお母さんのことほったらかして一人にして……!」 「無敵か」じゃない、この姉貴分。 無敵だ。 「……お前。 んだろ」 嫌悪感を前面に出したシン兄は、吐き捨てるようにモモ姉にそうぶつけた。 その言葉は……間違いなく、モモ姉への当てつけだ。 モモ姉が城に来たのは二年前。 ちなみに俺が来たのは三年前になる。 先代王様ことショウ様が突然不慮の事故とかに遭われる一ヶ月ほど前だった。 語り出せば長くなるので簡潔に纏めるならば、モモ姉はシン兄に城に来たのだ。 正確に言うとシン兄が引っ張ってきた、が正しいかと思う。 シン兄が連れてきたからこそ、参謀ウキョウさんは『貴方が面倒みてくださいね』とシン兄にまるっと押し付けたのだ。 そうやってシン兄とモモ姉は任務上パートナーになった。 シン兄がモモ姉を城まで引っ張ってきた理由……それはモモ姉が過去のことを覚えていない、いわゆる記憶喪失状態で不条理な環境に陥れられていたからだ。 シン兄は、劣悪で心が凍りついてしまうような状態にあったモモ姉に救いの手を差し伸べた……という表現であっているだろうか、そんな感じ。 色々戸惑うこともあった、お互いに噛み合わないこともあったけど、俺たちは戦師仲間として共に頑張ってきた。 モモ姉のその辛かった過去を誰よりも理解していて、その心に精一杯寄り添ってきたはずのシン兄が。 モモ姉に『母親のことでこんなにも悩める俺のことが羨ましいんだろ』と……こう返したのだ。 常のシン兄なら有り得ない。 前を向いて共に歩いて行こうとしているモモ姉に対して、こんなグサッとくる言葉を使うだなんて……! 「誰にだって、言われたかねえ言葉ってのがあるんだ。 無遠慮にドカドカ入り込んでくるのは、正直勘弁してくれ」
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