理解と涙と

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大体、なぜモモ姉はシン兄のお母さんのことをそんなに庇うのだろう。 そこが分からない。 俺のシン兄の過去話の説明が悪かったのか? だけど、俺はシン兄のお母さんに肩入れするような物の言い方はしてないはずだ。 だってシン兄のお母さんの行為は、息子であるシン兄にとってはたまらなくキツかっただろうと心底そう思っているから。 シン兄は出入口の扉付近に立つモモ姉に対峙しているから、その顔はよく見える。 だけどモモ姉に至っては、俺と同じくシン兄のほうを向いている訳だからその顔は伺えない。 何を語り出すのか予測不能の姉貴分は、声を落として話し出した。 「……覚えてる? 私がまだ、城に来たばっかりの頃……シンラ、高い熱出したことあったでしょ」 「……それが?」 「あの時……城はちょうどバタバタしてたし、私もまだあまり皆と馴染めてなかったし。 居場所がなかったってのもあって……その、私、シンラしか頼れなかったから。 だから、すっごい心配で。 医師達に任せとけばいいって聞いてたけど……傍についてたの」 モモ姉が言ってることは俺も知ってる。 他国のことになるけど、イーステンといわれるセカンダムの東にある国で、今から二年前に国王様が御崩御なさった。 その関連でウェスターの城にもゴタゴタの余波が及んでいたのだ。 そんな時分にシン兄は、ウェスターの兵士育成所にて流行っていたインフルエンザに罹患してしまった。 「……感染症の時に近くに寄るなよ、伝染ったらどうすんだっての……で?」 なんだかんだでシン兄は、微妙にモモ姉の身を案じる言葉を挟むんだよなあ。 だけど今に至っては不機嫌を隠さずに先を促してきた。 普段は優しいシン兄だけに、こんなキッツイ口調を面と向かってぶつけられるモモ姉は、絶対胸が痛いはずだ。 「すっごい呼吸荒かったしね、顔真っ赤なのに、なかなか汗かかないし。 でも点滴してるんだし、これ以上何もしてあげられることってないじゃない。 本当に大丈夫かどうか心配になって、顔覗きこんだのよ。 そしたらシンラ、唸りだしたから……」 モモ姉は語った。 シン兄をなんとか元気づけたい、楽にしてあげたい。 心配というより……慈しむようなそんな気持ちになったんだ、と。 『……大丈夫、すぐよくなるから。 安心してゆっくり休んで。 元気になったら、また……いろいろ構ってよ。 ね?』 モモ姉は続ける。 点滴には、体を休める薬が入っているだろうし、ただでさえ高熱だったのだからシン兄は覚えてはいないだろうけれど、と。 だけどシン兄は、モモ姉のその言葉を聞いた時。 ぼんやりと目を開けて、目の前のモモ姉を見て……言ったらしいのだ。 ―――母さん、と。
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