手紙とメダルと

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俺は戦師を生業にして早十年以上になる。 中堅よりはベテランの域だし、城に併設されているウェスター軍の兵士の育成所で講師を務めていたりもする。 今日は、講師の業務を終えて城に戻ってきたのが午後三時過ぎ。 本日の勤めを先に終えて、皆が寛ぐリビングのような広間にておやつを食べていた戦師の弟分と合流、くだらない会話を交わしながらのんびりと駄べっていた。 そこへ、本日の授業を終えた相棒……戦師の任務上は俺のパートナーである彼女が入ってきた。 彼女は訳ありで、学業の習得が遅れていた。 もうじき中等科に上がるという年齢の弟分とは一日交代で学業に励んでいるのが現状である。 公的には職に就いているともいえる戦師といえ、義務教育は徹底されている。 一日延々と、セカンダムの歴史やら各国の情勢やら難しい方程式なんぞの講義を受けて疲れ果てていたパートナーに、俺はサラリと言ってのけた。 「モモお疲れ。 今日のおやつ、大将がアップルパイ焼いてくださったぞ。 お前の分とってあるから、台所に行ってもらって来い」 俺の発言に彼女は分かりやすく顔を輝かせた。 彼女はアップルパイが大好きであることを俺はよく知っていた。 ウキウキと台所のほうへ向かう彼女……モモを見送りながら、弟分であるイサキはげんなりとした様子で俺に苦言を呈した。 「……サラッと、よく口がまわるね……」 「はー、今日はエイプリルフールだからな!」 大将とは戦師の長であり、先代王様とは竹馬の友だった。 また、先程までモモに学業を叩き込んでくださっていたのが大将の奥さんにあたる。 俺も王も大将の娘も、教員免許を持つ大将の奥さんに城内にて一般教養を習った。 この三人は幼馴染の関係といえる。 大将は大将で、ムキムキボディでイカつい強面でありながらも料理の腕にも秀でてられる。 城の一同の胃袋事情は彼にガッツリ把握されていて、紛れもなく彼はウェスター城の専任シェフでもあるのだ。 ……それから数分後。 可愛らしくもブスッと頬を膨らませたモモを宥めながら、俺たちが駄べるリビングに大将がやって来られた。 俺たち三人に散々笑われたモモは、すっかりむくれた顔をして先に自室に戻ってしまった。 「も〜……あんま喧嘩すんなやシンラ」 「分かってますって。 すんまっせんけど明日か明後日にでも。 アップルパイ、モモに作ったってくださいよ」 「なんだかんだで甘いなぁ、お前は」 「え~、俺も大将のアップルパイ、めっさ好き~。 モモ姉に作られるんなら俺の分も~」 俺もイサキも知らず知らずのうちに結構な甘党になってしまったのは、王も先代王様も揃って甘いものが大好きだから、なのかもしれない。 だけど、モモのアップルパイへの執着心が思いのほか強かったのか、俺たちに笑われたのが思いのほか悔しかったのか……彼女はエイプリルフールのこの日に、俺にとんでもない嘘で仕返しをしてきたのだ。
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