手紙とメダルと

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大将は夕飯の準備に台所へ戻られ、俺とイサキは二人ともタブレット端末と共に寛いでいた。 イサキはゲームをしていたし、俺は明日の講義のための調べ物をしていた。 別に自室で一人でやればいいことなのだけど、この弟分に関しては傍にいても邪魔になる訳でもないし。 歳は少し離れてはいるけど気軽に話せるし。 友達というよりも仲間というか、それこそ弟みたいな感覚だ。 城というと余りにも大仰だけど、ここに住まう俺たちにとってはここは実際に家である。 モモが部屋に戻って一時間ほどしてからだったか。 彼女は俺とイサキの前に現れた。 後ろ手で何か持っていて、妙にニコニコしている。 これ絶対何か仕掛けて来るな、と嫌でも分かった。 「さっきに事務員さんからね、シンラに手紙が来てるって預かったの」 もうこの時点で彼女の発言は嘘だ。 手紙なんて親展が原則なんだから、同じ戦師といえど本人以外に預けたりなんてする訳がない。 そんな事務員がいたとしたら、下手すれば解雇されてもおかしくない。 「これこれ! じゃーん! なんとシンラのお母さんからー!」 『シンラのお母さん』。 その単語が出た途端に俺は凍りついたし、俺の家庭事情を多少なりとも知っているイサキには緊張が走った。 だけど彼女は場の空気の変化を察しなかったのだ。 無理矢理にでも俺に、持っていた可愛らしいピンク色の封筒を押し付けてきた。 仕方がない、彼女が城に来たのは二年前。 俺の母親のことが城内でタブーになったのはたしか七年程前になる。 事情を知らない彼女に、いちいち目くじらを立てたところでどうしようもないだろう。 意識していつもの口調で、彼女を軽く小突いた。 「バーカ。 俺に嘘かまそうってんなら、リサーチくらいちゃんとしとけ」 しかし彼女は心底意外だという顔をした。 それから追い討ちをかけるように言ったのだ。 「えぇ……っ、シンラ、お母さんからの手紙って……嬉しくないの……?!」 俺は悟った。 もうこれ、ポーカーフェイスを通しきれないな、と。 モモから顔を背け、ギリギリのところで俺はイサキを見た。 俺の複雑な胸中を察してくれているだろう弟分に「後頼む」と言付けるのが精一杯だった。 二人を置いて広間を後にし、そのまま城の屋上に直行する。 昔から、何かある度に来るのはいつだってこの場所だ。 幼少時分に先代王様に叱られて膨れた王を宥めてやったのもここだし、先代王様が不慮の事故に遭われた三年前のあの時だってそう、ここで王と共に泣いた。 王と俺は気分が塞ぎ込むと決まってここに来てしまう。
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