手紙とメダルと

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『お母さんからの手紙って……嬉しくないの……?!』 ―――……俺は……当時、どれだけ両親からの手紙を待ち焦がれていただろうか。 スマートフォンなるデバイスが台頭してきたのはここ数年だ。 俺の実家は余りにも田舎で、携帯電話さえも大して普及していなかった。 手紙は俺と両親を繋ぐ、唯一の手段だった。 俺が城に来たのは六歳の時だ。 当時は先代王様の世代であり、現在王をしてるダイはまだ五歳。 お互いに初等科に上がってもいないようなそんな時分。 に頼まれて、卵を買いにおつかいに行った帰り道だった。 五歳の頃から既に武道の才覚に目覚めていたダイは、王様を連れ出してはあちこちで道場破り的なことをしていたらしい。 俺の実家は城からかなり距離があるが、近くにそこそこ名の知れた武道の道場があった。 ダイはそこでも気持ちよく快勝してきたとかでご機嫌だったようだ。 歩いている俺を見て、ダイは野生の勘というのか直感というのか……強そうな奴発見! 手合わせしてみてえ! とこう感じたらしい。 あいつはいきなりに襲いかかってきた。 今考えても本当に無茶苦茶な話だと思う。 だけど俺は、ダイの初撃を避けた。 あいつが飛び出してきた時にそれなりの殺気……いや殺す気はないのだから、戦う意思のオーラというのか。 そういったものを瞬時に感じとっていたから。 『はっ……おもしれえ!』 『おもしろくなんかねーよ! なんなんだおまえ!』 お互いに怒鳴りあって、それからあいつが連打を仕掛けてきたから俺は必然的に防戦一方になった。 なんにしろ買い物帰りで両手が塞がっていた。 荷物を庇っていたが故に不利だった俺だが、あいつの攻撃を避けている途中で卵が割れてしまった。 それでブチ切れた俺は攻撃に転じ、結果組み手どころか取っ組み合いの喧嘩となった。 体感五分ほどだろうか。 『はい、そこまで。 両者引きな』 大人に仲裁に入られて、俺は暴力を振るいまくってしまったことに気がついた。 常日頃から父さんに『お前は人よりも力が強いから、喧嘩などをしてはいけないよ』と強く止められていたのに。 まずいと思ったと同時に、でも楽しかったのに、とも思っていた。 正直、俺のほうが押していた。 しかし、俺を止めたその大人を見て……誰だかを認識して息を飲む。 こんな片田舎のこんな子供だって、王様の顔は知っているのだ。 なんにしろ、ウェスター王とは国民皆の憧れ、敬意の的、スーパーヒーローなのだから。
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