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俺は自分のことしか考えられなかったけど、俺が城に行くということは……両親と離れなくてはいけない、ということなんだ。
王様のお誘いを父さんは断った。 俺だって両親と離れるのは辛いけれど、だからって俺のために両親に肩身の狭い思いはさせたくなかった。
『そうか……。 うん、息子さんが寂しいなんて思ってる暇がないくらい。 ビシビシ鍛えぬきますよ。 そんでゆくゆくは、俺や息子を守護する「戦師」になって欲しい……俺はそれを思い描いてるんだ』
ウェスター国内では勿論のことだけど、他国に対してだって圧倒的強さを誇るウェスター軍。 別に各国と戦争状態だという訳でもない。 災害の際にレスキュー隊のような任務にあたったり、下克上を夢見てクーデターを起こす無法者を討ち取ったり。 国民からは、軍とは選ばれしエリート集団という認識だった。
だけど王様は、軍ではなく『戦師』と仰った。戦師という職の存在を当時の俺は知らなかったし、きっとそれは父さんたちだって同じだと思う。 ただ、『軍に入隊することよりも物凄いこと』だというニュアンスはしっかり伝わった。 なんといっても『王様や王子を守護する』、王様はそう仰ったのだから。
思わずダイを見た。 あいつは俺の視線を感じると、それこそ友達に見せる最上級の笑顔でニカッと笑った。 こんな顔を向けられてしまったら、断れる訳もないだろう。
いや、断るだなんて選択肢は俺の中に存在しなかった。 俺自身の技を磨き、力を伸ばし……それでいてその力を憧れである王様のために使う。 王様が用意してくださった道はまさしく俺からしたら夢のような話だった。 ……両親とは離れて暮らすことになってしまうのだとしても。
両親は心底行きたそうにしている俺を見てから、王様のお話を改めて承諾した。 善は急げというのか……王様は城に電話一本されただけで、俺を城に連れて帰る段取りを組まれた。 俺の準備といっても持ち物は身の回りのもの少しと着替えぐらいだ。 三十分もかからずに身支度を整えた。
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