タサキ〜上海〜

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タサキ〜上海〜

また同じ夢だ。 夢の中でいつも小さい女の子は俺にささやく。 “忘れないでねシンちゃん。 大きくなったら迎えにきてね絶対だよ。 だいすきバイバイ。” 少女の顔はおぼろげだがやけに艶やかに風になびく黒い髪が印象に残る子だった。 「約束通り迎えにきたよ京子。」 ベットから起きたタサキはシャワーを浴びに浴室へ向かった。 ⭐︎⭐︎ 「もしもし?あの…わたしだけど…いまいいかしら…?」 シャワーを浴びてバスローブを纏ったあと電話が鳴った。 受話器ごしの相手はためらいながらかけてきたのだろう、声がこのまえと比べて弱々しい印象を与える。 「あぁかまわない。君こそ得体の知れない俺なんかに連絡してきて大丈夫なのか?」 心配をしているようにみせて実のところ確信犯であった。 彼女は自分に必ず電話をしてくると。 「えぇ、いまは誰もいないわ。仕事も休んでるの…それで…」 少しためらったあと、間をあけて彼女は話し出した。 「あの日、兄は約束の場所に姿を見せなかったの。あなたの言った通りになったわ。何か知ってるのでしょう? あれから兄と連絡もとれないの。 てっちゃんなんてこんな時はなにも役に立たないし…あ、てっちゃんていうのは同僚よ。ただの友達ね。 あ、この前喫茶店に飛び込んできたの覚えてる?そう、それで…こっちにも信用できる人間なんてほとんどいないし…だからわたしあなたしか頼れなくて…。」 いつでもどんな相手にでも堂々と強く気高く、そしてなにより美しい娼婦の京子。 だがいま俺には弱々しい少女のような京子。いま彼女がたまらなく愛おしい。声を聞くと一層胸が締め付けられる。 初めて会った日から毎日彼女のことを考えていた。 正確には子供の時からだからかれこれ20年だ。 だがまだ告げないでおこう。 俺が君にどれほど焦がれ続け、どんなに君の全てを求めているか。 君には想像できないだろう? いま受話器ごしに弱気になっている君につけ入り優しくして動揺する君の唇を激しく奪いたい衝動を必死に抑えている男のことなど。 ほんとうは君が今まで相手をした客を全員探し出して殺したいくらいなんだ。 気持ちを全て押し殺し、タサキは咳払いをして受話器ごしの京子に伝えた。 「そうだな、今夜会えるかい?」
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