幸せなパパさん

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幸せなパパさん

 季節は10月に入り、西の大陸でゴーラを退治したあとしばらく経って、俺、何か英雄になっちゃったパパさん、ジョナサン・エルネストは、奥さんのフランチェスカと手を握り合って、学校医のコーウェル先生のもとに向かっていた。 「だーだららーらったー、たーらーらー」  ご機嫌で、生徒時代に作った曲を歌っていた。  21番目のアホンダラって曲です。これ。 「インククリムゾンって、私あんまり知らないのよね?ニャンコの足は鉄の爪ってフレーズは覚えてるけど?」  妊娠後期のママさん、フランチェスカ・ルバリエ・エルネストは言った。 「うんまあ。生徒時代はあんまり、君をライブとかに誘ってなかったしなあ。あれ?セントトーマスのデート旅行のこと?思い出しちゃったのかい?」  その証拠に、握った手を握り潰さんばかりになっていた。うちの蛮人ママは。  別に、歌ってたのはエウリアデって性悪の泥棒で、別に浮気とかじゃないのに。  まあインククリムゾンは、お隣の港湾都市ポートランドの動乱と同じ頃に興り、その後資金難でメンバー2人が去り、年が明ける前に消滅したバンドだった。  あの頃は、君と手を繋ぐなんて、到底考えられなかった。  勿論、君のニャンニャンちゃんに顔を突っ込み、「じゃー」しちゃうまで舐め回したり、ボッキンしたワンちゃんをジュブブってやって、妊娠させちゃうなんてとてもとてもとても。  今、体をこっちに預けて、堪らんおっぱいの谷間見せることもないよなあ。ああ♡おっぱいの匂いプンプンですよママさん♡  校医のマリア・コーウェル先生は、アカデミーの学校医にして、一般の人達も診てくれる、信頼のおける医者の先生だった。  俺の出産にも関係があったらしいし。  まあ、正直俺も、初産のママさんのケアなんて、知っていないけれどさ。  診察室のベッドに横になったフラさんが、お腹を捲っていた。  お腹を、じーっとコーウェル先生が覗き込んだ。  マリア・コーウェル医師は、アカデミーの卒業生で、ランクはシルバー。  但し、特級魔法持ちの、稀有な卒業生だった。  一芸的に魔法が優れているのは、アカデミーの卒業生ではよくあることだった。  疾風魔法に恐ろしい適性のあるフラさん。爆裂魔法やらせたら天才的なアリエール。寧ろ、器用貧乏だが大抵出来る俺みたいな人間の方が、かえって珍しかった。  威力雑魚いが、ほとんどの魔法使えるってのも、稀有な生徒だったのかな?  稀有な人間の中には、あまりに強すぎる奴もたまにいる。回復魔法の異常成長、再生者(リジェネーター)である、ルーシー・スパルタカスもそうだ。  他人の傷はてんで治せないのに、自分の傷なら手足が切り飛ばされても繫がるって、相当気味悪い奴だった。  しかもユリでメス犬だし。  俺は、そういう稀有な特級魔法使いを、もう1人知っている。  俺の親父、レスター・エルネストだった。  他の魔法は全てポンコツだが、何故か、植物を自由自在に成長させる、プラントテイマーだった。  コーウェル先生も似ている。彼女の魔法は、超高精度の透視魔法の使い手だった。 「うん。元気な女の子ね?属性特性は、水かしら?」 「ええ。そうみたいで」  明け方、寒くて震えてたりするんだよな。  朝起きて、まずするのは奥さん温めるとかで。  そのままニャンニャンちゃんをヌクヌクさせたりもするけどさ。 「原状、妊娠後期の女性は、いよいよデリケートだから、あんまりおっぱいペロペロしちゃ駄目よ?レスターなんか、全く言うこと聞かなかったし」  それに関しちゃすんません。  ただ、まだお乳が出ないのが心配で。  妊娠5ヶ月から、出る子は出るはずなんだけど。    うわーい。ルンルンと足取りも軽く、俺は家に戻ろうとしていた。 「ねえ、今日のお昼、卵料理で、いい?」  うほう♡それは、午後のお勤めのお話ですよね? 「うん!あのね?!今度生まれてくる赤ちゃんのね!可愛いアップリケをね?ママ!」  俺は、軽い幼児返りを起こしていた。 「ああママ!ママ!ぎゅー♡!」  顔を突っ込んだうなじから、ママの匂いとメスの匂いがプンプンしていた。  メスの匂いって、おっぱいの匂いとニャンニャンちゃんの匂いだった。  こっそり、お尻をムニムニしていたら、何かイラついた視線を感じた。 「あ?何してんだ。マリルカお前。授業サボんな」 「ああん?この私が魔法史?今更だろうが」 「どうでもいいけど、やさぐれてるぞ?」 「ああね?理由知りたい?おいお前、私今月始まってるんだけど」 「生理の匂いプンプンさせてたのはまあ知ってる。生理前に襲いかかって来たのも知ってる。で?「教員逆レイプじゃ大人しくしろおおおい!」っつって、逆さに簀巻きにされたのが、不満か?」 「不満に決まっとろうがあああああああ!ああ先生赤ちゃん元気♡?」  やおら、フラさんのお腹に耳を押し当てた。 「うん。順調よ?」 「うきゃああああああ!ああもう可愛い♡!赤ちゃん大好き!パパは嫌い」  何か、冷めきった目が俺を貫いていた。 「おい。うちの炭焼き親父からの招請だ。さっさといってこい」  丸められた、紙を投げつけられた。  ――その内、キャン言わしたるからな。  俺は、紙を広げながら、覚悟を完了させていた。  
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