別れ

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別れ

 そして、珍しく晴れたチヨーダで、俺は大きく背伸びをした。  ああああ!やっと終わったあ!俺は、とてもさっぱりした顔をしていたんだろう、タルカスは、呆れた顔をしていた。 「あの女性は臨月で、お産で亡くなったが、それでも、一番の懸念だったんだ。これが」 「けっ。ユリアスの子供だ?そんなの気にすんの、おめえだけだろうが。ただ、誰も気にしなかったのは事実だ」  ホントに抜け目のねえ勇者だぜ。こいつは。 「形のないものってのは、実は凄く厄介なんだ。で、ユリアスの死体は?」 「今探してるよ。焼くのが大変だ」 「まあ、でも、人手不足気味の捜査室に、いいメンバーが入るのめでたいよな?あいつ等をよろしく頼むよ」 「ああ全くこいつは、いつも無茶ぶりしやがるよな?だが!あいつ等のことは任せろ」  こいつも、いい男だよな?結婚出来そうにないけど。 「ところで、捜査室じゃ使い魔の魔法犬をずっと探しててな?どうだ?うちで最初の魔法犬にならねえか?俺の使い魔としてよ?」 「犬じゃねえか!だから!大体魔法犬てどんなの?」 「おめえにしかなれねえ仕事だぜ?」 「アカデミーの教員舐めんなよ?いずれ、凄いの連れてくからな?」 「後継者捕まえて、ついでに太陽神みてえなことしやがるし。何つうか、ありがとな?」 「こっちこそ済まん。きちんと評価するのが難しい立場に立たせちまって。ありがとう、タルカス」  向かい合って、ぐっと腕を組んだ。  捜査室という機関に、不安を抱いていたのは事実だ。だが、ここにタルカス・シーボルトがいてくれる。  こいつの勇敢さも、優しさも、向こう見ずなところも、全部知っている。  だから、俺は疑わなかった。  ただ、少し泣きそうになってしまった。 「じゃあ、王様にごめんして帰るよ」 「おう、じゃあまたな?」  それぞれの帰る場所に、俺達は帰ることになった。  何だろう、悪夢続きの毎日って、陰鬱で嫌な夢から一気に覚めたような気分になっている。  やっぱ夢だったのかあ。見ると奥さんの寝顔が♡ムフフ♡っていう感じ。  ところで、城に行ったらジークは怒ってるし、王様呆れてたけどさ。  やれって言われたことやりましたが、何か?つったら言葉出なかったもんな。  ガタノソア・スミスが代わりに優勝するかも?知らんて誰だそれ?  それどこの偶蹄目?つったら、アブラハムの弟子?ってなって、猶更知らんて。ってなった。  あいつは、あえて放っといた。ロクな死に方しないぞあいつ。  ポートで家に帰って来た。  うん。俺の家に。 「ぎゃあああす!生きてましたのね?!おめおめと負けを晒して!」  とか、 「よーし!よく負けた!ガックシ来て目え潰れおらあああ!フジサン孕んじゃるからなあああああ!ぎゃああああああああああああああああ!」  とか言われた。 「お帰りなさい。貴方」  帰って来たんだ。俺はここに。悪夢を越えて、無事ここに帰って。 「ああ。ただいま」  右手で額握ったアホが、ぎゃあぎゃあ言ってるが気にもならなかった。  ポイっと投げて。熱いキスを交わした。 「俺は、生きて、ここに帰って来たんだ」 「怪我がなくて、よかった。パパ」  ああ、俺達の子もいずれ生まれる。でも、ジェイド達に負けないよう、この子を、こいつ等をまっすぐ健全に育ててみせる。  つか!お前さっきからうるせえよ! 「ユノおおおおおおおお!ダアがいじめるのよおおおう!お腹に赤ちゃんいるのにいいいい!」  何か、幼児返りしていた。 「よしよし。大丈夫ですか?マリルカ」 「その嘘いつまで続くんだ?!聞こえたぞ人生スラップスティックって何だ?!」  (お前)のガタツキ予防とか、うるせえよこいつは。  おかげさまで、お前等いるから狂ってる暇ないんだ俺は。 「先生?さっきまで、王都にいたのに凄いです。どうやって来たんですか?連続縮地?」  首を傾げるこいつも、2番目狙ってる巨乳眼鏡(エメルダ)も、全員俺の生徒だ。  俺は、堪えられなくなって、ユノを抱え上げ、顔をお腹に埋めた。 「わああ。先生びっくりです。でも、父親みたいで、いいですよ?」  ユノの、春の牧草のような香りに包まれて、俺は帰還を完了させた。 了
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