ボメになってしまった

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ボメになってしまった

――――――ボメに、なってしまった。 ポメじゃない。あくまでも、ボメである。 かわいいポメラニアンではない、魔犬ボメラニアン。つまりは魔物だ。 ポメ化したならマスターに構ってもらったり、可愛がってもらったりしてリラックスすれば元に戻る。 だがボメラニアンは魔物なのである。 普通の人間なら泣いて逃げ出す大型魔犬。男神の遣いとして魔物でありながらありがたがられるシンボルだがそれはあくまでも男神神殿内のボメ像やボメグッズの話である。実物のボメは神の遣いであると同時に立派な魔物なのである。こんなまっふまふなのに全長2メートル5センチあるから。びみょーに2メートル超えてっから。 ボメラニアンは神の遣いだから手を出せばバチが当たるというから危害を加えられる可能性は少ないだろう。そしてボメラニアンはめちゃつよSSS級魔物なのだが大人しい魔物だ。すばしっこいだけでこちらから手を出さない限り襲いかかることはない。 『ギャギャーンヌッ』 しかもボメの鳴き声は思った以上にーーかわいくなかった。 これも多分、ストレスのせいなんだろうか。やはりいきなり恐怖の第2皇子に嫁げ、と言うのは無理すぎるだろ。 ※※※ ――――――遡ること30分前。 「はぁっ!?第2皇子に嫁げぇっ!?」 「あぁ、実は第2皇子殿下の妃がなかなか決まらないのだ。みなその恐ろしさに逃げ出し、いくら皇族でも耐えられないと。まぁ皇帝陛下は理解のあるお方だ。無理にでも婚姻させようとはしないし、ご自身の御子の幸せを願っていらっしゃるから、辞退したものたちへのおとがめはなかった」 「そりゃ良かったけど」 父であるクスクス辺境伯の説明に相づちを打つ。 「俺のは辞退できねーの?」 「いやまだ会ってもいないのだし。しかもウチが最後の頼みの綱だと言われて、断われなかった」 父上ーっ!そしてどんだけなんだよ第2皇子殿下はっ! 跡継ぎの兄とは違い、俺はだいぶ自由に生きてるから、社交界のことには疎い。礼儀作法なんかは辺境伯令息としてきっちり仕込まれたがその程度だ。 「何で俺が最後の頼みの綱なんだよ」 「いやだって、マフは強いだろ」 父上が俺の名マフトゥールの愛称を呼ぶ。 まぁ仮にも辺境伯令息だし。そもそもうちの辺境伯一家は母や兄も含めてみんな腕っぷしが強い。 「何たってSS級冒険者だ!」 「いや、確かにそうだけども」 俺は普段冒険者をしている。ハイランクでもあるので指名依頼なんかもこなす。さらには居住も辺境伯城ではなく、辺境伯領内の街中に手頃な一軒家の邸を購入して暮らしているのだ。 今日こうして父上から呼び出しでも受けない限りは(じっか)にはなかなか寄り付かない。 「それに俺、活動拠点ここだし。帝都には住まねぇぞ?それに俺の住まいの場所が変わればギルドも困る」 まぁ移動など魔法で一瞬だが。高ランク冒険者の活動拠点が変わると言うのはいろいろと騒ぎになる。そしてここは辺境と言う特殊な場所。辺境伯家からの討伐依頼には俺も参加することが多い。 それでもどうしてもな時は帝都に滞在もするが、帝都の宿をとる。宿が空いてないときはうちの帝都邸を使うけども。 帝都に移ったら移ったらで、冒険者活動用の邸を用意しとかないと、俺のボメ化の時に困る。ポメ化じゃないんだ、ボメ化なんだよ。 因みに宿でボメ化した時はささっと帝都の実家に転移する。ま、ボメ化してもいいように宿では広い部屋をとってはいるけど、そう言う部屋は少ないからやっぱり実家に泊まることが多いのだ。 でもなぁ。実家でもいいんだけど、いかんせん俺は貴族っぽいのが苦手だ。長年冒険者をやってきたからだろうか。実家だとそれなりに貴族らしくしなきゃならないから肩が凝る。 リラックスするのはポメガだけではなくボメガにとっても基本。 そのためにも帝都に邸を持たないとならない。 いや、結婚したら第2皇子と住むことになるかもだけど、それでもやっぱりボメガ用邸は必須だ! だって皇子と暮らす宮でリラックスできるとは思えないもんっ! 「そうだ、マフ!殿下はポメガに対しても偏見は持ってないと陛下がな」 それは何よりだ。兄上はポメガだし、母上もポメガだ。ポメガだからポメ時は魔法に頼るがヒト型の本体ならば拳も入るので負けなし。 「それに第2皇子殿下はここの辺境伯領を初めとする西の国境守の責任者として着任するから、マフもこのまま辺境住まいだ!良かったな!」 それならまぁ、――――っていいわけあるかああぁ――――――――いっ!俺、結局嫁やんけ。第2皇子殿下の嫁やんけっ! 「でもさ、その前に肝心なことを忘れてるぞ、俺はボメガだぞ。ポメじゃないの。ボメなのボメラニアンなのっ!!!」 さっき解説でもちらっと触れたけどもっ! ポメガに理解の深い第2皇子殿下だからと言って、ボメガまで許容してくれるとは限らないと思うけどな!? 「ボメラニアンなんて、ポメよりちょっと大きいだけじゃないか」 「ちょっとぉっ!?ちょっとじゃねぇからぁっ!!」 ポメの何倍あると思ってんのっ!もしもの時にスイートルームとかとらないといけないほどのでかさなのっ!詳しい計算は割愛するけどもっ! 「あなた、殿下がお目見えになったのだけど」 俺の男の母上が家令と共に呼びに来た。この世界は男同士でも婚姻、妊娠が可能な世界だ。 「なっ、もう来られたのか!?」 父上が立ち上がって驚愕する。 いやーっ、マジで!? どうしようぅっ!ま、まずはボメってばれないようにっ ボメっ あれ? 『ギャンギャウ』 ボメ化してしまったぁーっ! どーすんのどーすんだよこれっ!ボメ化した俺を見て、皇子殿下がお怒りになられたらっ! 「まっふまふ」 まふっ え?俺のふわふわボディに誰か抱き付いた? まっふまふ胸毛を見下ろせば、黒髪の青年が抱き付いていた。え、誰。 「素晴らしい、まっふまふポメだ」 そう言って顔をあげたのは、鋭いツリ目は冴え渡るアイスブルー。イケメンなのに目付きがちょーヤバい、美しい青年だった。 『殿下ーっ!?』 両親の悲鳴で、彼が誰なのか分かってしまった。 「ポメ」 殿下が俺のまっふまふボディを撫でてくる。まふってくる。いや、ポメじゃなくてボメなんだが。 「ポメポメ、ポメメ~」 で、殿下? それ、ポメの鳴き声のマネですか?ポメはポメって鳴かないからぁっ!そして俺はそもそもボメガぁっ! 『ギャンヌヌヌッ』 「鳴き声も、かわいいな」 かわいい!?これかわいいのぉっ!? そして頬、微妙に赤らんでない?嬉しいの?巨大ボメ気に入ったわけ?
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