星のプリンス君

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 気づくと、そんな王子君の姿をいつも目で追うようになっていた。  私はずっと不安だった。  お父さんが十年前に亡くなってから、お母さんと五歳年下の拓哉と三人で暮らしている。何不自由ない暮らしをさせてもらっているけど、たった一人で家計を支えているお母さんの口癖は「辛いかもしれないけど、勉強頑張りなさいよ」だから嫌になる。  私はその言葉に追い立てられるようにこれまで勉強して来たけど、拓哉は壊れてしまった。中学に入学してからほとんど不登校なのだ。  拓哉は元々出来が良くて中学受験に挑戦し、そして失敗した。落ち込んでいる拓哉に、「本気じゃなかったんなら、中学受験なんてしなくて良かったのに」とお母さんは責めた。     その日を境に拓哉は引きこもり勝ちになり、一切勉強しなくなってしまった。  私はそのとき隣のリビングでテレビを見ていたけど、えって思った。そんな怒り方ってない。仕事で忙しいお母さんは、拓哉が塾の友だちにまでわからない問題を聞いて回っていたことを知らないのだろうか?  ゆっくりと崩壊していく世界を私たちは生きている。そこで生き抜くためには周囲から脱落しないようにしなくてはいけない。ごく普通の幸せを手に入れるために。  普通でいるためにお母さんや先生の言いなりに努力する私は、とても平凡な女子高生だ。特に勉強ができるわけでもないし、取り立てて可愛いわけでもない。でも、「良かったね! 望み通り君は普通だよ!」と誰かに言われたら、私はその人を許さないと思う。  だから、そんな私にとって王子君は憧れずにはいられない人だった。王子君は存在そのものが唯一無二だから。私や他の生徒が必死に追い求めているものに興味なんてなくて、いつも高い空で宙を舞っている。とても自由で楽し気に。  王子君を見ていると、囚われている私の心まで青空と一つになることができる。  陸上部の練習が終わるのを待って体育館裏で告白した私に、王子君は困った顔をした。 「沢渡さんにはもっとふさわしい人がいると思うよ」  申し訳なさそうにそう頭を下げて立ち去ろうとした王子君のスポーツバッグを私は思わずつかんでいた。 「何それ? 好きな人まで誰かに指図されたくない! 私に決めさせてよ!」  すると、王子君は驚いたような顔になると私の顔をまじまじとのぞき込んだ。もうそのときには私は泣いていた。ボロボロとみっともなくこぼれる涙や鼻水をどうしても止めることができない。  王子君はとても真剣な顔になった。 「僕は女の子と付き合えないんだ。実は……」  王子君はそのままたっぷり十秒くらい黙り込んだ。何をカミングアウトされるんだろう? と不安になって泣くことも忘れて王子君を見つめる。王子君は迷いを振り切るように唇を噛み締めてから、おもむろに口を開く。
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