星のプリンス君

5/19
前へ
/19ページ
次へ
 私達が住む成島市は海に面したひなびた町だ。その一角に市営の水族館があり、市民にはお馴染みの行楽地になっている。小学校の遠足や、中学校の社会科見学も成島水族館だった。私は高校生になってから行ったことがないけど、学生カップルのデートスポットとしても定番だ。  一部が半開放型になっているモダンな造りで、すぐそばの海岸の潮風にさらされている。私が中学生の頃、館内にビーチから海鳥がやって来ていたこともあった。魚たちを襲わずに水槽で羽を休めに来るその海鳥は、私達地元民のアイドルで私も友達と見に行ったのを覚えている。  成島水族館はそんなほのぼのとした憩いの場だ。  けれども、その維持費が市の財政を圧迫しているというニュースはもう何年も前から耳にしていた。 「なくなっちゃうなんて寂しいな……」  と私が呟くと、 「王子と一緒にイルカショーの水被る予定だったのに残念だよね?」  里香はすぐにそうまぜっかえした。 「もーう! 彼氏とイルカショー見たいのは里香でしょ?」 「私は大学まで彼氏いらないから。今はまだ面倒くさい」 「付き合ってみたら違うかもしれないじゃん?」 「だって付き合った人、全員すぐ別れてるじゃん! 高校生には彼氏彼女は面倒って証拠だよ。香澄みたいに玉砕しても片想いし続けられるメンタルお化けが真の勝組だね。おめでとう!」 「コラー! 人をお化けにすんな! まだ生きてる~!」  ゴメン、ゴメン、ゴメンと謝る里香と一緒に笑ってから私は電話を切った。開け放した窓から夜風と共に花火が闇空を打つ音が響く。来年の花火大会は王子君と行きたいな……といつの間にか思っている自分に気づいて苦笑した。……見事にハマってる。王子沼。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加