星のプリンス君

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 翌日から夏期講習の帰りは、いつも遠回りして学校に寄り道するようになった。フェンス越しに王子君が棒高跳びする様子を見るためだ。振られたばかりだから見つかると恥ずかしい。そっと壁に隠れるようにして目を凝らす。  ポールを一度肩に載せて大きく深呼吸。そうして肩から下ろすと先端を中空に向け、引き締まった筋肉を躍動させて大股で走り出す。その様子はまるで古代ギリシャの槍兵のようだ。その槍を大地に思い切り突き立てると、n字にしなった槍の力で一気に空高くに躍り上がる。無重力魔法の瞬間。太陽の中、くるりとダンスするように体を反転させ、バーを越える。恍惚(こうこつ)の自由落下。その雄姿が汗できらめく。  この世のくびき全てから解き放たれているような王子君を瞳に焼き付けたくて、私はため息を吐き目をこらす。王子君が跳ぶ度に苦しくなるほど胸が高鳴る。  ――やっぱりいつ見てもそうだ。縛られている私の心が自由になる。王子君が私の心を大空に放ってくれる。  けれども、そんな夏休みが終わってすぐに行われた模試で、私の合否判定はBからCに下がっていた。私は愕然とした。全然勉強をサボった記憶はない。王子君を見に学校に寄り道したときも十五分以上はいないようにしていた。つまり、皆のレベルが上がって相対的に私の偏差値が下がったのだ。  ――どうしよう? これ以上勉強時間を増やせる気がしない……。  けれども、それよりも途方に暮れたのは、この模試の結果をお母さんに報告しなければならないことだ。  お母さんが成績にうるさいのは私の将来を心配してくれているからだというのはよくわかっている。  でも、私の人生は私のものなのに、テスト結果で全否定されるなんて絶対おかしい。 「もしお父さんが生きていたら何て言ってくれるだろう……?」
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