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「絶対に秘密だよ。僕が他の星から来たってこと」
そう言った王子君の顔を私はまじまじと見つめて、それからプッと吹き出した。王子君は笑いが止まらない私にちょっとムッとしていたけど、やがて安堵のため息を吐く。
「良かったよ。沢渡さんが笑ってくれて」
「ゴメン。さっきは泣き出したりして……」
王子君はきれいな顔をくしゃっと丸めて笑う。陽だまりの雪だるまみたいな笑顔。凛としているのに人懐っこい笑顔。私がずっと教室の片隅から見つめていた飾り気のない表情。
そう私はたった今、王子君に告白して振られたのだ。
夏休みの学校は無駄に広々としていて、体育館裏にいる私達の耳には部活をする後輩たちの声がしんしんと響いて来る。王子君がちょっとだけ遠い目で夏空を見つめるのを見て、私も真似をする。その瞬間、少し青春に酔った。
私達の高校は進学校だから、二年生で部活は引退だ。私も去年美術部を引退した。絵は好きだったけど、受験勉強の方がもちろん大事だ。クラスメートの王子君も陸上部を同じように引退している。
でも、王子君は引退後も顧問の先生に頼み込んで、他の陸上部員達とは別のスペースで自主トレをしていると聞いていた。
――王子君は夏休みの今日も学校に来て、棒高跳びのポールで空を舞っている。皆が必死になって机に向かっているというのに、王子君にはそんなことどうだって良いんだ。
そう思ったらいても立ってもいられなくなった。シャープペンを放り出した私は、告白するために学校へ足を向けていた。
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