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「部長、お先っす!」
「ああ、気ぃつけて帰れよ」
着替えを終えた後輩たちが次々に更衣室を後にしていく。一年生もようやく皆おれの外見に慣れてきたようだ。春の頃は、おれが顔を向けただけでも明らかに連中の顔に怯えが走ったものだが。
いや。
部員じゃない後輩や同級生、下手すりゃ先輩(特に女子)でも未だにおれに対してそういう反応を返す人間は少なくない。それほどおれは強面なのだ。
それに加えて空手部主将という肩書きが、おれの威圧感をさらに高めているようだ。ほら、今だって、生徒玄関でおしゃべりしていた二人の一年女子が、おれに気づいた瞬間顔を引きつらせ、おどおど挨拶して立ち去っていく。
まったく。
どうせ、ひどい乱暴者とでも思われているんだろうな。
はっきり言って、おれはケンカなんか一度もしたことがないし、試合も基本的に寸止めだ。うちの部の流派はいわゆる伝統空手で、戦うことより精神性と技の型の美しさを重要視している。だから、実戦経験のないおれは乱暴者どころか実は弱虫かもしれないのだ。
それはともかく。
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