深夜徘徊少年と壊れたおねーさん

『あのー。繋がってますか？』
『あっ、はい。大丈夫ですよー』
『マリーゴールドさんですよね。あのときは、ほんとお世話になりました』
『……いえ。こちらこそ、迷惑かけちゃってごめんなさい。あの頃のこと思い出すとなんか、恥ずかしくって』
『…………』
『あれ？　どうしたんですか？　切れちゃいました？』
『いえ、変わったなぁと思いまして』

　変わったというより、変わってしまった。あの日深夜の公園で出会って、一緒に過ごした【おねーさん】は、十五年間かけて僕の頭の中で美化されてそして、どこにもいなくなってしまった。

『あはは。そりゃあ、十五年もすれば変わりますよ』
　明るくて女性らしい笑い声をあげて、彼女は笑った。もう、小学生の僕を『少年』とは呼ばなさそうだ。あ、当時僕は『クソガキ』って呼ばれていたんだった。

『でも、せっかく再会できたのにちょっと残念ですよね？』
『あっ！　ぜんぜんそんなことないです！』
　慌てて訂正する。またこうして話せただけでも、生きていると分かっただけでもうれしいのは確かだ。

『うーん、じゃあこうしましょうか。最初の挨拶からやり直しましょう』
『はい？』
『君は、もしもし、おねーさんって言ってね』
と、彼女はいたずらっ子みたいな口調で言う。
『はい！』
即座に察した僕は、弾んだ声で答えた。

『もしもし、おねーさん。繋がってますか？』
『お、クソガキじゃねーか。久しぶりだな！　元気してたか？』